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プリクラ


「男同士でプリクラってのは恥ずかしくないか?」
「堂々としてれば、そう気にする人はいませんよ」
「しかし…こんなおじさんとで大丈夫か?」
「まだ三十半ばでしょう。まだまだですよ」

彼と知り合ったのは、ゲイコミュニティの掲示板だった。
ヤリ目的でタチネコスリーサイズが踊る中、ただ「誰かと話がしたいです」というメッセージだけが残されていた。
場所も近かったので好奇心で待ち合わせてみると、やってきたのは疲れた顔をしたサラリーマンだった。
誰かと話したいというわりには彼はひどく無口で、佐山さん、という名前を聞き出すのさえ1時間くらいかかった。
それでも、ぽつぽつとたわいない話を続けているうちに、少しずつ自分のことを教えてくれた。
昔、とても大切な幼馴染がいたこと。
その人に友情というだけでは片付けられないほどの想いをもっていたこと。
それ以上好きになれる人が見つけられなくて、自分がゲイではないのか悩んでいるということ。
「…その人とはどうしてるんです?」
「自分の気持ちが怖くなって、上京にかこつけて逃げ出してしまった」
そこまで聞くのに、さらに二時間ほどかかった。
全てを話し終えて、佐山さんは少しすっきりした顔でふう、と溜息をついた。
「で、どうでした?」
「え?」
「話し相手としては、合格でしたか?」
「ああ、僕にはもったいないほどの相手だった。ありがとう」
「それはよかったです。もしよければ、今度はこっちの話を聞いてくれませんか?」
こうして、時折二人で出歩く仲になった。

ある日、喫茶店に入ったとき、トイレに立った佐山さんはテーブルの上に携帯電話を置いて行った。
いささか骨董品めいた古い縦折り型の機種。何か感じるものがあって、その電池カバーをスライドさせた。
カバー裏を見てみると、年季の入った一枚のプリクラが貼られていた。
当時流行っていたゲームのマスコットのフレーム。
照れ隠しと分かる仏頂面で、学生服の少年が二人映っている。
そっぽを向いたうちの一人はおそらく昔の佐山さんだ。
どちらから、どんな言葉で誘ったのだろう。
きっと、男同士でなにやってんだろうな、気持ち悪いな、なんて必死で笑って。
それでも、色あせてなおずっと大切にして――。
この一枚の背後にある情景を思い描いていく中で、自分がどれだけ彼のことを愛おしく思っているかに気付いた。
臆病で、ステレオタイプな佐山さん。共に過ごす時間がゆっくりと増えていくだけで満足だった。
しかし、アミューズメント施設で映画を見た帰り、
ゲームコーナーのプリクラ機体を目にしたときにその気持ちは蓋を押し上げた。
上から踏みにじりたいわけじゃない。同列に並べてほしいわけでもない。
ただ、頭の片隅に自分を置いてくれているのか、分からなかった。

「男同士でプリクラってのは恥ずかしくないか?」
「堂々としてれば、そう気にする人はいませんよ」
「しかし…こんなおじさんとで大丈夫か?」
「まだ三十半ばでしょう。まだまだですよ」
そういうと、佐山さんはうーんと唸る。本当に嫌ならば、無理強いするつもりはなかった。
「いいよ」
「……えっ?」
こんなに早く返事が返ってくるとは予想してなくて、耳を疑った。
佐山さんは、もっと、こういうことに悩んで、苦しんでしまう人だと思ったのだ。
「君はいつもスマートだから、年上としてふがいないとは思ってたんだ。
 そんな君からの初めてのお願いだ。何としても、叶えなきゃね」
「――ありがとうございます」
「なんて顔してるんだい。なんだかこっちまで嬉しくなるね。
 さあ行こう。僕は不慣れだから、君が教えてくれると助かる」
暖かな声に迎えられて歩きだす。
飾り付ける前の透明なフレームの中に、今度は2人、笑って。