優しい嘘
「ねぇセイジ、好きって言って?」
「ああ、大好きだよシュウ」
"俺"がそう答えるとシュウはまるで花が咲いたように笑う。
俺は表面上の笑顔を浮かべる、そうすればシュウが喜ぶから。
案の定シュウは更に笑みを深める、それを見れば俺は幸せになれる。
「なあシュウ」
「なに?セイジ」
「お前は"俺"のことが好きか」
「うん!当たり前だよセイジ!大好き!愛してる!」
そういって"俺"に抱きついてくるシュウ。
その温かみが俺には、恋しくて、愛おしくて。
そっとその背を"俺"は撫でる。
「セイジ、今日はやけにやさしいね」
「当然だろう?"俺"とお前は付き合っているんだから」
"俺"がそういったとき、俺の心がずくりと痛んだ。
シュウの笑顔を見ても癒されない、この傷だけは、永遠に。
なあシュウ、俺はいつまで"俺"でなければいけないんだ?
俺も"俺"もお前を愛している、だけどお前は"俺"にしか愛を向けない。
「なあ、シュウ、愛しているんだ」
「知ってるよ、セイジ」
「シュウ、俺の名前を呼んでくれ」
「……?セイジ?どうしたの?」
違う、"俺"の名前じゃない、俺の名前を呼んでほしかった。
でもそれは永遠になされることは無い。
シュウは夢を見ている、目がさめているのに見ている夢、"俺"とシュウが共にある夢。
もう、戻らないというのに、戻らない現実の夢のために、俺はセイイチではなく、セイジになろう、お前のために。
「俺はお前を愛している、シュウ」
最終更新:2014年11月29日 23:15