チャンスは今夜だけ
「やばい、やばいんだよ、兎に角やばい」
はいはい、と適当に相槌を打ちながら、光を介抱する。
「えいちゃん、明日告白しちゃうんだよ、今日しかないんだよ…」
「それ、17回目や。筋肉バカ」
なら何でえいちゃんとやらに告白せず、真面目な声色で「しげる来い」と俺を呼び出したんだと問いつめたい。真面目なんて久々だから慌てて来てみたら、何でベロンベロンに出来上がってんだよとやっぱり問いつめたい。
「今日しかチャンスないんだよ…」
「正確にはもう今夜や。とっくに夜の10時やわ、阿呆」
「うー…えいちゃん…」
えいちゃん、光が酔う度に紡ぐ名前。ガタイの良さとは別にすぐに酔う光は、えいちゃんがどんなに素晴らしいか語り始める。そんな子が明日告白するらしい。
知らんやん。ほんま、知らんやん。
「ったく、えいちゃんとやらに早う告白せんか。メールとかでええやん。大丈夫、変な風になってへんか推敲したるから」
「むり、むりだよ…えいちゃん、絶対に困るもん…それに、えいちゃんが告白する日付も、えいちゃんが酔ってる時に聞き出したんだもん……嫌われるよ…」
あー、うざい。うざいこの筋肉バカ。何で俺このボケナスなんかに惚れてん。幼馴染ってこわい。
「あっそ、ほな飲めば」
「うん…」
光のチャンスを潰すチャンスは今夜のみ。自分に辟易、はしてるけど、そんなん知らん。俺は光にちゃんと宣告してる。やから許される。…と言い聞かす。
「いよいよ明日か…」
「んー?」
「阿呆は酒でも飲んどれ」
知り合ってから20年。グローリーコンビなんて言われてから10年。お互いベロンベロンに飲むようになってから5年。明日は光の誕生日。25になっても好きだったら決めていた。たとえ光が誰かを好きであろうとも。明日、俺は光に…。
最終更新:2014年11月27日 20:47