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年下の彼


ガチャリバタンガサガサパタパタと、それまで自分一人で静かだった空間が騒がしくなった。
「せんぱーい!酒とつまみその他買ってきましたよー!」
「はいはいお疲れ様。おつまみはここ置いといてね。お鍋ももう出来るから器とコンロ、テーブルに出しといてくれる?」
来たばっかりで悪いけど、と付け足してから僕はまたお鍋に向き直る。
僕が何も言わなくても勝手知ったる他人の家とばかりに、鍋に使う食器の位置もコンロの置き場所も熟知している彼はいそいそと食事の準備を始めた。
一年前、最初に彼を招待した頃は逐一“これはここ”と教えていたというのに…と少し感慨深い。

「先輩の卒業にかんぱーい!ついでにいただきます!」
「ふふ、ありがとう」
彼が買ってきた焼酎を杯に注ぎチンと軽やかに音を重ねる。美味しそうにぐつぐつ煮える鍋を、二人で囲んだ。
三年の時に同じ学科に入ってきた彼と親しくなって一年。こうして僕の家で夕食を一緒にするのは既に珍しくない。
彼も独り暮らしだが、放っておくと一切自炊しなさそうだとお節介を焼くようになったのが始まりだった。
もうすぐ僕は卒業する。とは言え彼との付き合いが無くなる訳でもないだろうから、別に特別騒ぐようなことでもないと思うけれど。
「あーもう、大学行っても先輩いないんじゃ寂しいっすよぉー」
それほど強い焼酎でもないはずなのに彼の顔はもう赤い。若干呂律も怪しくなってきていた。
「ほら、あんまり飲むと危ないよ。帰りどうすんの?」
「きょーはぁ先輩んとこ泊まるんでーだいじょうぶっす!」
「…そう」
この笑顔に弱い。無邪気過ぎる笑顔にこっちの毒気も抜かれてしまう。

暫くハイテンションになった彼を突っついたりして遊んでいたら、不意に彼が笑顔を引っ込めた。
「せんぱい」
「あ、ごめんね。痛かった?」
「せんぱい」
「え…な―」
何、と聞こうとした僕の言葉を遮って彼の唇が自分のそれとくっついて、そしてゆっくりと離れる。
「な、にして…」

「おれね、せんぱいがすきだよ」
「ずっとまえから、はじめてここにきたときから」
「ずっと、すきだったんだよ」
言うだけ言って彼は魂でも抜けたかのようにバタリと倒れ込んだ。びっくりして確かめたら寝てるだけ。
「何それ…反則」
思わず唇に触れて、感触を思い出してまた恥ずかしくなる。

明日彼が起きるまでに何と返事すればいいかを考えなくちゃいけない。
後片付けより大変そうな課題に、それでも少しだけ頬が緩む僕は十分彼に毒されているようだ。