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 >>277
 踏まれるのは私だ!


「待ちたまえ、277」
赤いピンヒールが俺の背中を踏みしめようとするのを、苛立った声が遮った。
「君は昨日も踏んでいただいただろう。今日踏まれるのは私のはずだ」
その台詞を口にした人物の表情からは、この空間の中では正当ではあるが世間一般では異常な主張をすることへの羞恥と、
それを凌駕する欲望と、そして嫉妬心がはっきりと読み取れる。
「すみません、274先輩」
立ち上がっていちおうは謝罪の言葉を口にしたものの、俺は口元に笑みが浮かびそうになるのをこらえていた。

男子校の弱小同好会を隠れ蓑にしたこのSM倶楽部の存在を知って入会してみたものの、
Sは『女王様』(男子校だから男だが)1人だけで、残りは全員が通し番号で呼ばれるM奴隷というシステムは俺の嗜好とはかけ離れていた。
それでも俺が退会せずに今日まで奴隷に甘んじていたのは、一つ上の先輩にこの通称274がいたからだ。
まじめで、成績もいつも上位で、おまけに風紀委員のこの人が、よくまあこんな倶楽部に入ったものだなと思う。
しかしここで女王様に踏まれたり罵倒されたりしている時の至福の表情を見ると、間違いなくこの人がMの性を持っていることが分かる。

けれども最近はその至福の表情もどこか陰りがちだ。
俺が入会した頃と同じように女王様にいたぶられていても、何かが違うというような物足りない表情で、上の空になっていることが多い。

それにさきほど見せた嫉妬心。
あれが向けられていたのは、俺ではなくて女王様の方ではなかったか?
密かに仕掛けてきたことがそろそろ実を結んだのかもしれないと思い、俺は行動を起こすことにする。

「先輩、そんなに踏まれたいんですか?」
俺の言葉に彼はさっと顔を赤らめたけれども、すぐに言い返してくる。
「と、当然だ。そうでなければ、わざわざこんなところにはこない。お前だって同じだろう」
精一杯虚勢を張って冷静さを装っているけれども、少し声が震えているし顔も赤いままだ。
「いえ、俺は別に」
しれっとそう答えてやると、彼は「えっ」と言ったきり固まってしまった。
「それよりも先輩。
 踏んで欲しいんだったら、俺が踏んであげましょうか?」
そう告げると、彼は驚いた表情になって呆然とつぶやいた。
「……君が…僕を?」
「そうです。先輩が踏んで欲しいだけ踏んであげます。
 お望みなら、もっと他のことも、いくらでも、あなたがして欲しいだけ」
俺の言葉を聞くうちに、彼の表情が恍惚としたものに変わっていく。
可愛い奴隷がこの手の中に堕ちてきたことを、俺は確信する。
「俺に踏まれたいですね?」
「……はい」
彼がためらったのは一瞬だけだった。すぐに小さめだがはっきりとした答えが返ってくる。
「いい子だね、正道」
「あ……名前」
「名前を呼ばれるのはいや? 数字のままの方がいい?」
「あ、ううん、どちらでも。君の好きな方で……」
すっかり2人の世界に入り込んだ俺たちを見て、女王や他の会員たちがざわめきだした。
「おい、ちょっと待て、お前らどういうことだ」
会長の問いかけに俺は微笑んで答える。
「すいません、2人とも今日で退会させていただきます。それでいいよね?」
正道がうなずいたのを確認すると、俺は会長やみんなに向かって頭を下げ、正道の肩を抱いて部室を出た。