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帰りたい


 好きなんだ、といった親友の言葉に俺はなんと答えることができたのだろう。

 テレビの向こうでは着飾った女の子達や、爆笑するお笑い芸人たちが極彩色の世界で光っているのが見えているのに、馬鹿らしい笑いと流行りのポップソングが流れているのに。俺は、一体、何をしているのか。
 目の前の親友は真剣な表情で俺を見つめ、舌なめずりするかのように唇を薄く舐める。

「好きだ。俺は、お前が、好きなんだよ」

 出会ったのは幼稚園、それからずっと一緒の生粋の幼馴染みでもあり親友でもある奴は、俺にそう伝えた。
 嘘だろうと目を瞬かせると、さっきまでのふわふわした年末気分は全て消え去り、一瞬で現実が分からなくなる。
 そんな状況だと言うのにテレビはお祭り騒ぎだし、名前しか知らないような演歌歌手がよく分からないような歌を大声で歌っていて、脳内は"?"で占められてしまう。
 返事すらも出さず、動きもしない俺に焦れたのか、合コンのときに女の子達からカワイイと誉められる、アーモンド型の形のいい二重の瞳を閉じて、ゆっくりと顔をこちらへと近づけてきた。

 この唇を受け入れたら、俺は親友と健全な友人同士には戻れない。それは、嫌で。
 でも、親友の傷付く姿を見ることは、もっと嫌で。
 ……――結局、どの道を選んでも友人同士には帰れないんだろう、今までのように気軽に馬鹿をやれた日々には、もう。

 真上にあった親友の顔にどうすることもできずに、ただ呆然としたまま瞳を閉じる。
 この部屋の中以外の世界は、新たに迎える年を呑気に祝っている。それが、どうしようもなくもどかしく。
 帰りたい親友との平凡な日常を思い出させるようで、胸の奥がちくりと傷んだ。

「……好きだ」
「…ッ、」

 触れた唇、重なるゼロ距離の瞬間。
 柔らかな感触は、あの日には帰れないと伝えているようだった。