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ひょろい×筋肉質


リストバンドを買いにスポーツ用品店に行ったら、
レジの前でクラスメートの峰と鉢合わせした。
峰が手にしていたのはダンベルだったので、俺は少し驚いた。
峰は、勉強は得意だが運動は苦手な典型的なインドア派で、
肌が白く体型もひょろりとしている。
女子には案外人気があるようで、クラスの子が「峰くんて中性的で素敵」
「王子様みたいだよね」と話しているのを聞いたことがる。
女の子から「王子様みたい」と言われるなんて、
ラグビー部所属で色黒がっしり系の俺からすれば少しばかり羨ましかった。
そんな峰とトレーニング器具の取りあわせは、だから全くしっくりこない。

「よぉ」
「あ、佐々原…」
「ダンベル、買うの?」
「あ、うん」
「なんか意外だな。お前がそういうものに興味持つの。スポーツとかさ、あんまりやらないじゃん?」
「うん、そうなんだけど…ちょっと、身体鍛えてみようかなって」
「へぇ…」
峰があまり詳しいことを聞いてほしくなさそうだったので、俺はそれ以上は追及しなかった。
まあ、こいつにはこいつの事情があるんだろう。
ただ、気になったのは――。
「お前さ、こういうの使うの初めてだろ?」
「うん、そうだけど…」
「初心者が無理な使い方して肩とか手首とか痛めるのってけっこうあるんだよな。
よかったら俺が基本を教えてやろうか?」
俺の申し出に峰はびっくりしたように目を瞠ったが、すぐに嬉しそうに頷いて
「よろしく頼む」と頭を下げた。

話してみると峰の家と俺の家はけっこう近いことがわかったので、
それぞれ家に戻って着替えてから近所の公園で落ち合うことにした。
「悪いな、手間かけさせて」
「いや、俺も筋トレの初歩は先輩たちに教わったからさ」
とりあえずダンベルの使い方の手本を見せながら教え、
その他道具を使わない筋トレ、腹筋、腕立て伏せ、ジョギングについても
アドバイスしたりした。
峰も俺のいうことを素直に聞いて、慣れない運動に真剣に取り組んでいた。

今まで同じクラスでも挨拶を交わす程度の付き合いだったのだが、
こうして一緒に時間を過ごしてみると、案外面白くていい奴だとわかり、
俺としてもけっこう楽しいひとときだった。
峰も得るものがそれなりにあったのだろう。
これからも週に2~3回はこの公園でのトレーニングにつき合ってくれないかと
頼まれたので、俺は快諾し、その日はそれで別れた。

そして、約束通り週に2日か3日、俺の部活が終わってから公園で一緒に
筋トレに励むようになった。
トレーニングの合間にいろいろ話もして、音楽の好みが同じだったり、
俺の好きなラノベを峰も気に入ってたり、二人ともアジフライが好きだけど
俺はソースは峰は醤油派だとわかったり、他愛ない会話を重ねていくうちに、
俺たちはかなり親しくなっていった。


一緒にトレーニングをするようになってから3週間ほどたつと、
俺と会わない日ももちろん真面目にトレーニングを続けていた峰の身体には
うっすらと筋肉がついてきた。
そんなある日。
いつものようにトレーニングを終えてベンチに並んで腰を下ろし
スポーツ飲料で喉を潤していたとき。
峰が、不意に言った。
「僕が筋トレはじめた理由ね」
「うん?」
「実は、僕、小坂さんに憧れてたんだよね」
そう聞いて、俺は、ああ、と納得した。
小坂さんは隣のクラスの女子で、明るくてはきはきした性格で男子にも人気がある。
そして彼女の好みはスポーツマンタイプの男性だった。
でも、小坂さんは今…。
俺の表情を読んで、峰は頷いた。
「うん、彼女、今テニス部の牧村とつき合いはじめたよね」
そう、小坂さんは現在牧村といい雰囲気になっている。
つまり、峰は失恋したってことか…。
「あー、その、なんていうか……元気だせよな?」
失恋した友達にかける言葉をさがしあぐねた末にごくありきたりのことしか
言えない俺だったが、峰はにこりと微笑んだ。
「大丈夫。実をいうとね、最近僕他のひとのことが気になってたから…」
「あ、そうなんだ。よかったじゃないか。その子もやっぱり筋肉がついた男が
好きなのか?筋トレ、まだ続ける?」
「うーん、男の好みはわからないけど、筋トレはこれからも続けるつもり」
峰が筋トレを今後も続けると聞いて何故かほっとした。
が、続く言葉に仰天した。
「だってさ、押し倒すのにはやっぱり筋肉が必要じゃない?」
「いや、ちょっと待て。なんでいきなり押し倒すって話になるんだ・」
「だって、その人のこと見てるとムラムラしてくるんだもの」
「だからって押し倒すのはまずいだろ?そんなことしたら一発で嫌われるぞ。
 つか、まず、つき合ってください、だろ?」
「だって、OKもらえなかったらそれっきりじゃないか」
「まずは誠心誠意心をこめて、つき合ってくださいってお願いしろよ。
 それでダメなら男らしく諦めろ。とにかく無理やり押し倒すのはなしだ」
「えー、でも…」
「峰が真剣に誠意をもって告白すれば、相手の人だって真剣に誠意をもって
 応えてくれると思うぞ」
「そうか…。そうだね、じゃあ…」
峰はしばらく考えこんでいたが、急に俺の目をまっすぐに見つめてきた。
とても、真剣な表情で。
「佐々原、あのね、僕…」