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ペプ師マン 人気者黄色(津イスト)×影薄青

俺の方が先にここに来ているのに、後からやってきたあいつに人気が出るって
どういうことだろう。

 俺とあいつはいつものように客前に並んで立ち、声が掛かるのを待っている。
赤看板が目立つ隣の店の連中とはライバル関係にあるが、広告を出したり互い
の店に新入りを入れたりする度に客の流れは変わるため、店の売り上げは常に
流動的だ。店のオーナーですら客の好み、最近の流行などをつかむのに必死な
のだだ、実際のところ何が客にウケるのかなんて誰もわからない。
 ここは本店からかなり離れた地方の支店。隣の店の独占状態を打破すべく最
初に本店からここに送り込まれてきたのがこの俺だ。
 俺は後から来たプラチナブロンドの軽い感じの奴や、緑系のスーツにホワイト
シャツしか着ない見た目はさわやかだが中身はクールな奴や、山岳地方育ちで
若年層に人気のある奴が働きやすい環境を作るため、必死で働いた。無料体験
キャンペーンと称して隣の店との違いをアピールしたり、本店の常連客でここに遊
びにやってきた「普段は歌を唄っている」という客のためにコンサートを開いて
やったり、別のお客で「スポーツ選手だ」という人に協力してもらって来店してくれ
た客に抽選でプレゼントを配ったり。
 最近ようやく隣の店と人気を二分するほど俺の店は大きくなり、俺たちが何か
策を練って隣の店の客を奪う作戦を実行するたびに毎回のように駄目出しをして
きた本店からもやっと認められるようになって俺はほっとしていた。

 そんな俺の店にあいつがやってきたのはほんの少し前の頃。あいつは俺の弟だ。
それもかなり歳の離れた奴で、おれがここに来たときにはまだ産声すら上げてな
かったのに、いつの間にか本店のある地域で生まれて、いつの間にか本店でス
カウトされて修行したらしい。
 初顔合わせのときにオーナーがそんな話をしてくれたが、あいつはあいつ、俺は
俺。顔つきも体格もそっくりだけど、性格や好みのタイプが違う。
 オーナーに「面倒見てやってくれ」と頼まれた都合上、必要最低限のことは手
伝ってやったがあいつにお客がつくかどうかなんて俺の知ったことか。そう思いなが
ら俺は店でNo,1の売れっ子という看板を背中に背負い、いつもと同じように働いて
いたのだが。

 ふと気がつけば、俺についていた客はあいつに取られてしまっていて、いつの間
にかあいつの方が店でNo.1になっていた。俺の周りはいつもの常連客、それも長い
こと店に来てくれる古株の客ばかり。その常連客もあいつのことがきになるらしく、
たまに新規の客がついてもすぐにあいつの方に流れてしまう。
 何がいけないのか、何が客の好みに合わないのか俺は分からないまま分からな
いまま、俺はあれこれ考えながらいつものように店に出る。俺の隣にはプラチナブロ
ンドの奴が、反対側に一人はさんであいつが立っている。
 今日も最初にお客に呼ばれたのはあいつの方だった。俺は握り拳に爪を立てなが
ら顔は笑顔を作って耐えている。隣のプラチナブロンドの奴に「最近お疲れのようで
すよ。少しお休みになったら?」とまで言われたが、「放っておいてくれ」と答えるのが
精一杯で、俺は客に囲まれて笑顔を振り巻いているあいつの顔を見ているしかなかった。

 営業が終わり俺は暗い店内で一人考え事をしていた。そこへあいつがやってくる。
「あの…兄さん、お話したいことが…」
兄さんだと? 俺はお前の生まれたときのことを知らない。お前が育っていった過程を、
お前が本店にスカウトされたときのことを、お前が修行している姿を知らない。そんな
俺を、肉親と呼べる奴なんて一人もいないと思っている俺を兄だというのか、お前は。
「僕は生まれたときからずっと、周りの人から兄さんのことを聞いて育ちました。兄さ
んがここで頑張ってきた過程や、それにかかわる苦労や、努力。隣の店とのことを考
えれば、他のみんなが兄さんを慕い兄さんのことを本当に大切に思っている理由も分
かります。兄さんがどれだけ偉大な人なのか、お客様にも教えていただきました」
だから何だというんだ? 老いぼれはさっさと引っ込めとでも言うつもりか。
「今は一時的に僕の方にお客様がついていますが、僕はこの先の将来にわたってま
で兄さんのお客様を奪うつもりはありません。僕は兄さんと一緒にこの店をもっと盛
り立てていきたいんです。そのために僕は、ここに来たんですから」

 そう言ってあいつは俺に近づいてきて、
「ずっと前から…、こうしたかった…」
俺の胸に顔をうずめた。頭からシャンプーの香りがする。匂いと胸元を押し付けられ
る感覚に記憶があるのだが、それを何の匂いだったか、いつそんな感覚を感じたの
か思い出せない。
「兄さんは、僕のことが嫌いです…か?」
『君は、僕のことが嫌い…なの?』
聞き覚えのある言葉。ふと頭の中に一人の人物の顔が蘇る。黄色い肌、あばた顔、
小柄でちょっと太っていて、俺と一緒に本店からここに来たあの人。あの人は人気者
だったから俺以外にも付き合っている人がいて、俺と会うときはほんの短い時間しか
一緒にいることができなかった。俺と会うとあの人はいつも少し寂しそうな顔をして、
「君は、僕のことが嫌い…なの?」
と言い、それを聞くたびに俺は堪らなくなってあの人を抱きしめていた。今はもう昔の
ことだ。


 そうか、だから俺はいつの間にかこいつにあの人の面影を重ね合わせていて、あの
人とほんの短い時間しか一緒にいることができなかった思い出のせいで、こいつを受
け入れることができなかったんだ。
「いや…嫌いじゃない」
あの時と同じ返事をして、俺は頭を撫でてやる。あの人と同じ匂いがする。
 「また来るよ」と言って去っていったあの人と再び会って、ずっと一緒にいられるとき
が来るまで、俺はこいつを受け入れよう。果たしてそんな日が来るかどうかは、誰にも
分からないことだけど。