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陰間「私だって忙しいんです」

「今宵も蝶は花から花へか?」
芝居小屋の蔭から出てきた童子を一人の男が引き留めた。
童子の年は十三ぐらいだろうか。鮮やかな友禅に身を包み、まだ男になりきらない身体はぞっとするような色気をにじませていた。
「手を離してください。私だって忙しいんです」
「この前俺がやった着物はどうした?利休鼠のやつだよ、着てねぇな」
「あんな地味な服でお勤めに出れるわけないでしょう」
「へぇ、そのきんきらきんの友禅でならそのお務めはできるのか。
屋台小屋の裏で女犯にびびった色坊主のまらしゃぶって……!」
それまで澄ましていた童子の顔がキッと男を睨む。
それを見た男はようやく満足げな表情をした。
「そうだ、それでいい。役者になるなら綺麗な顔も重要だが、喜怒哀楽もしっかりないとな」
男は懐から団子の包みをだして童子へ渡した。
「お前は蝶になりたいんだろう?舞台を見た奴の魂抜いちまうような役者になりてぇんだろ?
綺麗な着物着て男の種抜くだけの蝶になりたかったわけじゃないだろ?

……どのみちお前にゃ蝶はまだまだ早い。お前なんざ、さなぎですらない、まだ芋虫だ」
芋虫はせいぜい腹いっぱい食えよ。そう言って男はその場を立ち去った。
童子の手の中の団子はまだ温かい。