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ヒゲ

つ、と伸ばした手で顎を捕らえる。
親指の腹でやんわり撫ぜると、ざり、とした髭の感触。

――嗚呼。

オンナノコのような横顔に欲情したのは遠い昔の話、青春期の気の迷い。
だってあの頃コイツは可愛かった。そこいらの女よりよっぽど可愛かった。

「…なに?」

怪訝そうな声に、はっと我に返る。

「…あ、いや。…ヒゲ、が」
「髭?」
「……お前でも生えるんだなぁ、と…」
「あァ?俺だって髭くらい生えるさ。当り前だろ、こんな時間だし」

ガキの頃はともかく、そう言って苦笑する。俺の手に顎を預けたまま。
…手を放すタイミングを完全に逃した。
指先に、ちくちくと刺さる、むず痒いような刺激。
――自分は男だと、俺に主張するように。

そう、ガキの頃ならともかく、だ。
女のような白い首筋、細い腕。
あの日の横顔。夕陽を受けてきらきらと金色に輝いた産毛。
あの頃のあの衝動だけなら、気の迷いと笑って済ませられたものを――

「お~い、酔ってんのかァ?」

いつまでも動こうとしない俺の手を、それでもコイツは振り払わないまま
ぴた、と俺の頬に手を添えた。
悲しいまでに骨張った、男の手。

「…お前も髭生えてんよ」
「……そりゃぁネ。」

――嗚呼、それでも俺は。


気の迷いと呼ぶには確かすぎる熱を今も持て余している