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死神×予知能力者

死神がゆらりと立ち上がった。
眠る男に大鎌を振り下ろし、その魂を手に入れた。


初めて男が死神を見たのは、学校で腹痛を起こして倒れ入院したとき。
目を覚ますと、ベッドの足もとに黒い塊がうずくまっていた。最初はゴミ袋が置いてあるのかと思った。
よく見ると骨ともつかぬ手が生えていて、棒を握っている。目を上にやると、先端に大きな鎌がついていた。
男は思った。なるほど、このままだと俺は死ぬんだ。
ナースコールを押した男は、暢気そうにやってきた看護師に詳しい検査をいますぐやってくれと必死で頼んだ。
男が夢で見たのは、腹の中の大きな血管が破裂して死ぬビジョン。
バタバタと緊急手術が行われ、男は奇跡として一命をとりとめた。
いつのまにか死神は消えていた。

それから、男の身には幾度かの災難が訪れた。
横断中に車が突っ込んでくる。
高速道路で目の前の車が居眠り運転。
急激に増水した川に流される。
飲食店で食中毒。
胃ガン。
くも膜下出血。
男はそのたびに予知夢を見た。夢の中で男はなぜ自分が死ぬのか、その理由を知る。
目を覚ました男は早めの手をうって事なきを得た。前後に死神は姿を見せ、しかしその鎌を振るうことなく消える。
男は、死神が自分を許さないのだと思った。人知を越えた能力で死神の手をすりぬける行為は、きっと神の摂理に反しているのだろう。
運命を越えて生きる男は家族を持った。人生を賭けるべき仕事も得た。死神はますます忌むべき存在となった。
男の能力は完璧だった。死神の罠は幾度となく張られたが、男はあらかじめ回避した。
予知できる危機は危機ではない。男の人生は、死神によって逆に安泰となったのかもしれなかった。

男は長く生きた。男の大切だったものは今やその多くが失われていた。
男の時代はとうに過ぎ去ったのだ。
男は夢を見るようになった。暗く、寒い、なのにどこか温かい夢。
夢の中なのに眠っているような男に、誰かがそっと頬を寄せる。いとおしげに、そっと。
それがかつて見たような予知夢なのかどうか、男にはわからなかった。仮に予知夢だとしても、男にはとるべき手だては見つからなかった。
夢うつつにまどろむ日々に、男は黒いゴミ袋を見た。人を呼んで捨てさせようと思い、気づいた。
久しぶりだ。
「死神」
思えば長いつきあいだと思った。懐かしいような気さえした。
「ずっと、待っていたのか、お前」
初めて話しかけた。声が出ているのか判然としなかったが、これも夢なのかもしれなかった。
「もう逃げられない、そういうことだな。お前もやっと仕事を終わらせられるというわけだ。
 その鎌で俺の首を……痛いのは嫌だな。なにか楽な死に方をした方がよかったのかもしれないが、なにしろ俺は死なないことだけを考えてきたからなぁ」
死神は動かない。
そういえば、男は一度も死神が動くのを見たことがなかった。
「思えばお前のことばかり恐れて生きてきた気がするよ、いつも。ご苦労なことだ、たった俺ひとりに、こんなにも長く」

眠くなった、と男は思った。眠れば、またあの夢を見る。
目をつぶった。