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ミ/ス/タ/ー/ド/ー/ナ/ツ

『いいことあるぞ♪ミ/ス/タ/ー/ド/ー/ナ/ツ♪』


30歳の誕生日。
ゆうべ寝る前に仕掛けた洗濯機、ホースが外れてベランダが水浸しだった。
通勤電車で痴漢に間違えられた。
教室に入ったら俺のかわいい生徒たちが、「先生30歳おめでとう」「マジおっさんだね」と笑いやがった。
階段でふざけていた生徒にぶつかって落ちた。鼻血が出た。
誕生日を祝ってもらう飲み会で、学生時代からの友人達の三角関係が発覚。殴り合いの大喧嘩に。
止めに入ったら「ホモのてめぇに何が分かる!」と怒鳴られて店内の空気が凍った。

……。
俺は何か悪いことでもしたんだろうか。

飲み屋の店員にひたすら謝って解散し、疲れと空腹からふらふらと近所のドーナツ屋に立ち寄った。
「いいことあるぞ♪」ってキャッチのCMを流してた有名なあの店だ。
ドーナツを何個か取って、飲み物と一緒に購入して、さあ席に着こうとしたその時。

「あっ!」

という声がしたと思ったら、頭からアイスコーヒーを浴びていた。
そして顔にぶつかるドーナッツとトレイ。
俺の目の前には、ふざけていてトレイをひっくり返したらしき女子高生たちがいた。
そしてその女子高生たちは――逃げた。
きゃあきゃあという悲鳴を残して。

……。
俺は何か悪いことでもしたのか?
どこに「いいこと」があるんだよ。

情けない気持ちのまま、店員から渡されたタオルで顔を拭き、代わりに出されたドーナッツと飲み物を前に、俺は食欲も失せて椅子に

座り込んだままだった。
本当は今すぐ帰りたかったが、なんだか力が抜けて立つことができず、とりあえず店の奥の人目につきにくい席に隠れるように座るしか

なかった。
本当に今すぐ帰りたい。消えたい。透明人間になりたい。誰にも存在を認識されたくない……。

「大丈夫ですか?」
いきなりかけられた声の主は、さきほどからこちらをちらちらと見ていたサラリーマンだった。

……今日は本当に運が悪い。
こんな状況で知らない人に優しい声をかけられるなんて、あまりに運が悪い。
耐え切れず涙を流した俺に、サラリーマンは相当慌ててしまったのだろう。
彼は焦ったように俺の隣の席に座ると、子供を慰めるように肩を抱いてあれこれ話しかけてくれた。俺はついつい今日の自分を襲った事

柄に関する愚痴をこぼし、彼は辛抱強くそれを聞いてくれた。

声を殺してはいたものの、たっぷり泣いて気が済んだ頃、着替えに来ないかと誘われたが、こちらも近所なので断った。初対面の相手

にこれ以上迷惑をかけるわけにもいかないだろう。
別れ際、彼はそっと名刺を差し出した。「愚痴ならいつでも聞かせてください」という心の広い言葉を添えて。

家について何とはなしに名刺を裏返すと、ボールペンで殴り書きされたメッセージが目に入った。


――男性に興味がないならこの名刺は捨ててください。軽いと思われるかもしれませんが、ひとめぼれでした――


俺は今日の不運をすべて忘れた。



『いいことあるぞ♪ミ/ス/タ/ー/ド/ー/ナ/ツ♪』