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夕立と雨宿り

夏。夕暮れ。
第五週目の金曜日。
不意打ちのような、にわか雨。

この条件が揃うと、学園の南門の柳の木の下に幽霊が出てくるんだって。

「まっさかぁ。そんなことあるわけないって」
「でも、歩はそういうの見えるんでしょ?」
「小学生の頃まで…な」
「じゃあ、もしかしたら会うかもしれないよ」

雨宿り、してるんだって。柳の木の下で。
傘を忘れたから、誰か入れてくれる人が来ないかなって待ってるんだって。

「じゃあ、あれか。誰かが傘に入れてあげれば成仏するのかね」
「……そうかも」
「なんだかそれも、可哀想な幽霊さんだなぁ」

そういって歩は、持っていたビニール傘を傾けて
隣を歩いているサトルの肩が濡れないように気をつける。
夏休みの部活帰り。天気予報通りの夕立。
下駄箱から南門までの距離は意外とあって
問題の柳の木まではまだ遠い。

「…でも、歩は優しいんだね」
「ん?」
「雨が降る日はいつも傘持ってるし」
「まぁ、母さんが傘持ってけって煩いしな」

そういえば、サトルと初めて出会った日も雨が降っていた。
夏休みがはじまって、最初の部活の日。
朝から雨が降っていたのに、彼は傘もささずに柳の木の下で雨宿りをして…。

「……おい、サトル」
「何?」
「お前、まさか」
「…僕ね、歩に会えてすごい嬉しかった」
「嘘、だろ……」
「トランペット、はやく吹けるようになるんだよ」
「だって、だってサトルと会ったのは第五週でも金曜日でもなかったじゃないか!」
「うん」
「だったら、ほら、違うんだろ? だってお前足あるし温かいし、触れるし!」
「うん。…でも、成仏しないと」
「するなよ!」
「…どうして?」
「だって、それは、その…だから!」
「うん」

言おうとして、恥ずかしくて声が裏返ってしまってもっと恥ずかしい。
自分でもわかるほど、顔は真っ赤だ。
けれど言わないと。目の前の彼が消えてしまう前に、伝えないと。

「サトルと、一緒にいたい…から…」
「…歩」

気のせいか、だんだんと雨音が弱まっている気がする。
遠い空の雲の隙間から、太陽の光も差し込もうとしている。
太陽に背を向ければ、七色の虹が見える。その虹を渡って、彼は行ってしまうのだろうか。
俺の不安をよそに、儚い笑みを浮かべて彼は言った。

「…うん。じゃあ、逝かない」
「サトル!」
「っていうかね、ごめんね。幽霊っていうの、嘘」
「……は?」
「歩のこと、好きだけど…だから、振られるの怖いから先に聞き出しちゃえーみたいな」
「………」
「歩、顔真っ赤だね」
「…お前も、目ぇ潤んでるぞ」

8月31日金曜日。晴れ。
ところにより、にわか雨。