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浪人生×医者

 診察を待つ患者の中に僕の姿を認めた先生は、
無表情のまま目を逸らし、フロアを横切ってそのまま歩いて行った。
僕は堪らず席を立ち、先生を追いかけた。
「先生、……先生…!」
 僕の声が白い廊下に響く。
患者の何人かが僕の方に視線を流した。
先生は此方を振り返りもせず、スタスタと歩いていく。
「…先生…待って下さい…」
 僕はさっきよりは声を抑えて呼びかけた。辺りに人気が無くなると
先生はピタリと立ち止まって僕の方に振り向いた。
「何の用だ」
 先生は冷たい表情と尖った口調で僕に問うた。
「…いや…、あの…」
 僕は言葉に詰まる。先生は明らかにこの間と態度が違っていた。
先生は氷の様な眼で僕を射抜いたまま僕に言った。
「一度きりだ、と言った筈だ。まさかまた事故に会った訳でもないだろう。
怪我も治ったんなら此処にはもう来るな」
「……先生…、俺は…」
「退屈だったんだよ、だから君を抱いた。君も退屈だった、
だから俺を求めた。それだけの事だろ?」
「…違います…、そんな…」
 僕は泣きそうになるのを必死で堪えた。
確かに『浪人生活』という流れる日々のループから
救い出してくれるのが、先生なんだと信じてはいた。
あんなに溶け合う程、一晩で何度も求め合ったのに、
先生にとってはスリルのある遊びでしかなかったのだろうか…?
「じゃあな、元気で」
 先生は最後の最後に淋しく微笑って僕に背を向けた。 

『先生が…好きです…』
 その言葉を一度も言えないまま、僕は先生の後ろ姿を見送った…。