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行き過ぎた友情

「なぁなぁ、お前は興味ある?」
 唐突にかかった声に、仕方なく読んでいた本から顔を上げる。その先にはチェシャ猫のような笑顔。
「……何に?」
「『行き過ぎた友情』ってやつに」
 寮の同室になってから二ヶ月。同室の彼の、こういった唐突な物言いにも、いい加減慣れてはきたけれど。
「なんだいそれは」
 溜息が出るのは止められない。
「全寮制男子校じゃよくあることらしいぜ? ま、ただの興味本位だけどな。真面目な優等生君はどうなのかと思っただけさ」
 相も変わらずチェシャ猫のような笑顔の、その不思議な色を湛えた瞳。いつもの瞳の色とは、違うような気がした。その瞳の色を見ていたら、何故だろう、
「そうだね……『友情』のカテゴリーからは外れるかもしれないけど、風紀委員長は尊敬できる人だと思ってるよ」
 そんなセリフが口をついて出てきた。
 彼は一瞬、真顔に戻ったように見えた。ほんの一瞬のこと、気のせいだったかもしれない。次の瞬間には、彼は元のチェシャ猫の顔に戻っていたのだから。
「へぇ。そういやお前、風紀委員だっけ」
 面白がるような口調。そうだよ、とだけ返して、僕はまた読書に戻った。
 一年の子猫が堅物の風紀委員長を落とした。そんな噂が校内を駆け巡ったのは、それから一週間後のこと。僕に代返を頼んだのち、消灯時間をはるかに過ぎて部屋に戻ってきた彼は、友達がどんなのに興味があるのか知りたかったんだ、と、またチェシャ猫のように笑った。