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本物とニセモノ

放課後の教室は、人もまばらでどこか寂しい。
そんな教室に、うるさい奴が入って来る。
「ナイトー、俺、またふられちまった」
遠野はそう言って俺の机に縋りついて来た。これで何度目だか解らない。
遠野がふられるのも、こうしていちいち俺の席へやってきて泣き言を漏らすのも毎度の事だ。
「なあ、ナイトー、俺の何がだめなんだと思う?」
「とりあえず、俺が女ならいちいち事あるごとに友達のところへ来てそういう事を言う奴はお断りだね」
「……ちぇー。ちゃんと聞いてくれると思ったのに、つめてーの」
そう遠野が言うのも無理はないだろう。これまではきちんと遠野の泣き言にも付き合っていたし、それなりに慰めもしていた。
けれど、今回はそんな気になれなかった。気づかない方がいい事に気づいてしまったからだ。
「ほんと、俺、ミリョク? っつーのがないのかな。なあ、ナイトー」
「知らねえ。そんなの、自分で作れ。てか自分で気付け」
どうしても素っ気なくなってしまう。
自分でも子供っぽい嫉妬だとは思うのだが、どうしようもなかった。
「俺さ……そろそろやめようかなーって思うんだ」
「何を。女の子おっかけまわす事か? それはいい事だな。被害者が減る」
「んー。……うん」
急に遠野は声のトーンを落として、俺の机に指でくるくる螺旋を描く。
「なんつーかさ、本物のレンアイ、したいじゃん。ちゃんとさ」
「……相手が居るならな」
「今までのさ、女の子、嫌いなわけじゃないけど……なんか違うってーか。ウソっぽい感じだった。てか、ウソだったんだ」
多分そうなんだ、と独り言のように遠野が呟く。……一体何を言いたいのか。俺には解らない。
「ナイトーさ、ナイトーは、本物! みたいなレンアイ、した事ある?」
さっきまで手元を見ていた遠野が顔をあげる。茶色がかった髪の間の目が、俺を見ている。
その視線に耐え切れず、俺はそっぽを向いて「した事あるように見えるか?」と訊いた。
「解んないから訊いてるんだろ」
「――ある、あるって事にしておけ。もういいだろ」
「どんなの? 本物のレンアイって、……こんなに、苦しいのかな?」
「知らねえよ! お前なんか、……知らねえ。俺は帰る」
遠野に、そこまで想う相手が居たなんて。そりゃ、不自然だとは思ってた。
何度も何度も色んな子に付き合いを申し出たり、その度ふられてはまた誰かに……。
叶わないけれど、そのくすぶる想いをどこかにぶつけたかっただけだ。
俺も、なんで気づかなかったんだろう。
好きだっていう事に。今までの友情めいた台詞がニセモノだった事に。
あいつの……本物の恋を、応援する事は、俺には出来ない。
俺は、あいつが好きだから。