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真面目な後輩×遊び人先輩

「体壊しますよ」
怒った声が降ってきて顔を上げれば逆行の中、後輩の伊藤が怖い顔で立っていた。
タバコを手元の缶に押し付けて消すと最後の煙を肺から吐き出した。風にのった煙は
伊藤へかかることもなく、空気の中へ溶けていく。
「いーんだよ」
へらっと笑って答えてやれば伊藤の眉間に更なるしわが加わる。
俺が練習をサボって帰ろうとするとよくこの顔で校門に立ちはだかったなぁ、既に引退
した部活動の日々を思い出す。
「よくありません」
その声も変わらず、全く一緒。
「ところで、部長が立ち入り禁止の屋上にいていーの?」
「話をそらさないで下さい」
あまりにまっすぐな目がこちらを責め立てる。いたたまれなくなって僅かに視線を逸らした。
「怒るなって。俺、ニコチン星の王子だから、たまに摂取しないと死んじゃうの」
だから、ね、見逃して。
丁寧にウインクまでつけてお願いしたのに伊藤は全く聞いてくれなかった。
「その言い訳が通用すると思ってたんですか」
「女の子は大体これで許してくれるもーん」
伊藤の顔が更に怖くなった。伊藤は真面目すぎるのだ。しかも、規則とか法律とかに
違反するからどうこうではなくて、体に悪いからとかためにならないとか、おかんかよ
っていう理由で責めてくる。正直言って苦手だ。
「また、彼女に振られたみたいですね」
伊藤が話題を変えた。
「おう」
「また浮気ですか」
お前こそまたその話題か。
女の子に悪いとか、そのうち刺されますとか、何度も聞いた説教が脳内でリピート
し始める。いい加減飽きて逃げようとするとごつい手に腕を強く捕まれた。
「なに」
「…またすぐ、彼女作るんですか。そうでしょうね、二週間とあいたことないですもんね。
 適当にどっかで引っ掛けて、また浮気してまた振られるんでしょうね」
イライラと神経質な声でまくし立てられ、流石にかちんと来た。

「関係ないだろ。俺はそのときそのときを楽しむんだよ」
言った瞬間強く手を引かれ、フェンスに体を打ち付けられた。衝撃に息を詰まらせると
目の前の顔が泣きそうに歪んだ。
「…った、」
「先輩…」
まるで何かにすがるような声だ、と思った。
思った瞬間唇に衝撃を感じた。
「すきです」
まっすぐな目が俺を金縛りにさせる。
「すきです…」
もう一度呟いて伊藤は今度はゆっくりと唇を重ねてきた。侵入してきた舌が上顎を擽る
ように撫で、俺の舌を絡めとる。あまり慣れていない動きだ、とぼんやり思った。
暫くそうして好き勝手に蹂躙するとそれはゆっくり出ていった。
「煙草やめて下さい。苦いです」
キスの直後がそれかよ。
文句を言う前に伊藤はこちらに背を向けて去っていった。
結構重厚な金属音を立てて閉まった扉を呆然と眺めた。座り込み、大きく息を吐く。
「…痛ぁ」
口端をぬぐった親指には最初のキスでぶつけた時の血がついていた。