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傭兵

やっぱり、傭兵なんてロクなもんじゃねぇや。
腕っ節にはそれなりに自身もあり、運もあった。
気付けば『黒の狂犬』なんて呼ばれて名も知れ渡り、荒稼ぎして、そこらの貴族連中よりずっと賢い生き方をしてるんだと粋がっていた。
それが今となってはザマだ。
掃き溜め以下の場所に死体と一緒に打ち捨てられた俺自身、何で生きてるんだか…
こんなことになってまで運の良さを発揮されても困るってもんだ。いっそ、おっ死んだほうが良かったのにな。
血の匂いと腐臭がめちゃくちゃキツくて、生きてた喜びなんて微塵もねぇ。
「あー、血が足んねー…」
意識がだんだん遠のいていく。
クソみたいな人生をクソみたいな場所で終わらす。それもお似合いかもしんねぇな。
最期は一人で静かに死ねるってんだから、上等なもんだ。

「おい、そこのゴミ。………死んだのか?」

一人で静かに死ねる。
その筈で目を閉じたってのに、不愉快なモーニングコールに目を覚まさせられた。
「なんだ、生きているではないか。お前、私に雇われてみる気はないか?」
チビで弱そうなくせに、やたら尊大なこの男。
こんな薄暗い場所でも光沢を失わない見事な金髪と、どこぞのお貴族サマのような場違いな服装。なんなんだこいつは。
「あんた、どっかの貴族か?なんでこんなトコにいる」
「私を知らないだと?やはり貴様はゴミだな……私はお前を知っているぞ、『黒の狂犬』。」
「なるほど、俺が傭兵だと知ってて雇おうってんだな。ごあいにくさま、俺はさっき退職を決意したばかりでね」
「何故だ!」
「テメェには関係ない」

早くどっか行ってくんねえかな……そう思っていたら、ばたばたと複数の足音が聞こえ、不敵に笑っていた男の顔が途端に青ざめる。
他人よりは聞こえのいい俺様の耳が、足音と共に会話を聞き取る。
「どっちへ行った!?」だの「必ずあの王子を探しだせ!」だの。
王子?
王子って、まさかこいつのことか?

「ちったあ話が見えてきたぜ…」
「うわっ!」
「見つかったか……って、クサッ!なんだここ……死体?」
「ここには流石にいないか…他を探すぞ」


「行ったな…」
「きっ…きっさまァーーーッ!私を誰だと思ってる!?こんな、死体の山に埋めるなんて!」
「本物の死体になるよりマシだろ。なぁ、王子サマ?」
「……くそっ!」
もう汚れてしまっているが、よく見たらこいつの服には確かにこの国の紋章が刻み込まれている。
でも、この国の王子ってことは…

「そうだ…私はもう王子などではない。王城は焼き払われ、父上も母上も、兵も皆殺された。私だけが無様に生き残ったというわけだ」
肩を震わせ、下唇を噛んでいる『元』王子。
「だから、貴様を雇うと言っているのだ!私は生き延びねばならん。我が王家の血を絶やさぬために…!」
「金もねーくせに」
「ここにある!父上の形見のネックレスだ。売れば半生を遊んで暮らせるくらいの額にはなる!」
「あ、そう。だがさっきも言ったが俺は傭兵なんてもうやめた。ましてや、追われてる王子の護衛なんてまっぴらだ」
「なら貴様は、このままここでのたれ死ぬとでも言うのか?」
「さてね。どっちにしろ引き受けられない。見りゃ分かるだろ、この目」
俺の左目は、敵にやられてえぐれていた。
ただ生活するぶんには支障はないだろうが、戦いになっては不利なことこの上ない。
「……構わんさ」
「は?」
「私は、誰も守れなかった。多くの国民の生命を犠牲に生き延びたのに、一人で生きる術もない…ただのゴミだ…!」
「ゴミにはゴミがお似合いってか?」
「そうだ。……ゴミ王子にゴミ傭兵、仲良くしようではないか」
「……バカか、あんた…」
気位の高い貴族サマが、自分をゴミだと言ってのける。
国が亡くなって頭がどうかしちまったのかねぇ。

負傷した傭兵と何の役にも立たない王子が手を組んだところで、どれだけ生き延びられるというのか。
まぁ、すっかり目も覚めちまったことだし、せっかくだからもうちっと足掻いてみてもいいんじゃないか、なんてことを思った。
全てを失って、こんな場所で血まみれになって、それでも目に光を宿したままのこの『ゴミ王子』を見てるとな。

「いいぜ……黒の狂犬、最後の大仕事だ。雇われてやるよ、王子サマ」