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無口×カタコト

「ユウキ、つめたい」
膨れ面をしたハルに名前を呼ばれて、初めて彼が俺に話しかけているのだと気づいた。
昼下がりのカフェテラス。午後の気だるげな眠気は目の前の留学生に邪魔されている。
習いたての日本語で一生懸命話そうとしている様子は、どこか子犬を連想させる。珈琲色の瞳でころころとこちらを追いかけてくるゴールデンレトリバーの子犬だ。
と、考えている内にじっと彼を見つめていた。お国柄だろうか、目が合っても動じずに笑い返し、ハルはまたぎこちない一方的な会話を再開させる。しかし。
(どう考えてもミスチョイスだろう・・・)
ハルと知り合ってからというものの、何故か彼は俺を見る度に話しかけてくるようになった。
本人曰く、未だ不自由している日本語の勉強のため、らしいが、黙りこくっている俺を相手にしてもしょうがないだろうに。
人と話すことは嫌ではない。が、人には得手不得手というものがあり、俺にとって会話はなかなかに難しいことなのだ。
めまぐるしく分かれ、派生し、変化する言葉を追うのは大変で、まるで異国語のようだ。だから適当に流してただ頷いているだけにしないと、だんだん頭痛がしてくる。話す気が無いわけではない。・・・多分。

「ねぇ、ユウキ、ユウキ、きいてる?」
今日のお題は日替わりランチについて。lunchの発音が良いなぁ、流石だとか考えていると、またも名を呼ばれた。
小さく頷く。だがハルは不満らしい。赤い頬を膨らませて抗議しようとしている姿は幼子のようだ。
「だからね、ユウキ・・・あぁもう、えーごではなしていい?」
もう一度頷く。
『ユウキは冷たい。反応が薄い。俺の話、聞いてるの?』
なんとか聞き取った内容は、まるで我が侭な彼女のようで、噴出してしまった。きょとんとした目でハルが見ている。だが、すぐにしゅんとしてしまう。
『俺の話、楽しくない?・・・日本語、もっと上手になれば、ユウキと喋っても良い?』
はたして、なんと答えたものか、と考える。我が侭な彼女には包容的な彼氏が必要だろうか。
口を開こうとしたが、自分はほとんど英語が話せないことに気付き、ペンとペーパータオルを手に取る。
『ごめん。話すのが苦手なだけ。ハルの話を聞くのは楽しいよ』

今度は目に見えて表情が明るくなる。本当によく表情が変わる奴だ。
「じゃあ、ねぇ、ユウキ!」
次に出た言葉は日本語だった。拙い発音だが、先程よりも幾分か楽しげだ。
「おれ、もっとにほんごを、べんきょうする!だから、またつきあってね!」
頷く代わりに笑みを浮かべて、このくらいの会話なら、俺でも話せるかなぁと思った。
あぁでも、いつまで経っても日本語が不自由なままじゃ、愛の言葉も囁けない。「Iloveyou」は恥ずかしすぎる。
今度からは、ハルに付き合って俺も意見してみよう。その方が上達も早い筈だ。
これからの会話授業の予定を立てつつ、こみ上げて来る感情をアイスカフェラテと一緒に飲み込んだ。