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充電器×携帯

「よろしく」
そう言って笑いかけてきたのが初めてだった。
よろしく、なんて人間みたいな挨拶だなと思ったのをよく覚えてる。
なんだか口にした事の無いそのよろしく、という言葉を真似て返すと彼が笑った事まで俺の中には残っている。
彼と俺とはいわゆる多分仲間、というやつなんだろうか。仕事仲間、とか?
まあきっとそういう感じに呼ぶんだろう。人間だったら。
俺は携帯で、彼はその俺を充電してくれる充電器で、俺にとって彼は必要不可欠だった。
ぐったりとしている俺に力をくれるのはいつも彼で、
「お疲れ」
「大変そうだねぇ」
「俺がいるからもう大丈夫」
だなんてそんな事を言う。
俺は充電器って言ったら彼しか知らなかったし、もしかしたら他の充電器もそうなのかもしれないけど。
でも彼のあのゆったりとしたトーンでそうやって声をかけられると熱を持った俺の体からすうっと力が抜けてすごく心地いいんだ。
これは多分、彼でなければ駄目なんだと思う。彼が、あの姿であの声で、あの笑顔で俺をそうやって満たしてくれるからだ。
だから俺もまた頑張ろうって思えるっていうか。

だから俺はもう電池もギリギリの状態で今日も彼の前に来た。
ぺたりと座ると、今にも目を閉じてしまいそうだった。やばい。もうほんとギリギリ。
「おーお帰り」
「ただいま…」
彼とのやり取りはいつもこうで、本当に人間がしてるそれと一緒だ。でもそれがすごく落ち着く。
俺が座り込んだそこに、彼が近寄ってきて俺の方へ手を伸ばしてくるから俺は少しだけ顔を彼の方へ向けて突き出した。
「あー疲れてるねえ」
ゆっくりと彼の手が俺の頬を包み込む。じわりと俺の中が満たされようとしていくのがわかる。
クタクタの体に、温かいものが流れ込んでくる、その熱が俺の体の隅々に染み渡るように俺はゆっくりと力を抜いた。
彼にもたれかかるように。
「でも大丈夫。俺がちゃんとフルに充電してあげるから」
そう言って、彼は俺の額に額をくっつける。さらに温かいものが流れ込んできて、気持ちいい。
多分人間が眠ったり、そうするような安心感ていうのはこれに似てるんだろうな。
「よろしく……」
「寝てていいよ、明日の朝にはちゃーんとフルになってるから」
彼の優しい指先が、俺の頬をゆっくり撫でた。それに一度だけ、俺のどこかがびくりと震えた。え?何だ、これ。
思わず目を見開くと、すぐそこにある彼の目と目があった。
「ん?」
「あ、うん。よろしく」
何だろう、これ。俺もしかして不具合でも出た?
ゆっくりと彼から伝わってくる温かいものに満たされていく、
心地よさに包まれて一瞬感じた不安が何だったかわからなくなっていく。
ああ、もういいや。明日覚えてたら自分でチェックしてみよう。今はもう、彼に任せて眠ろう。
「おやすみ」
彼がそう声をかけてきたけど、俺にはもうそれに返事ができたのかどうか。
ゆっくりと全てのシステムをオフにして、俺は彼にもたれて目を閉じた。