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サッカー部はバカとエロの巣窟

「マジで!?ついにヤったのかよ!」
プール横の部室棟、サッカー部部室の鉄の扉に、ノックをしようと手をあげたところで、中から聞こえてきた叫び声に、扉を叩くのをやめて立ち止まった。
「おめでとう脱童貞!」
「え、ど、どうだった?やっぱ気持ちいいの?」
中で騒いでいる男達は、外に僕という人がいることも、声がすべて筒抜けであることにも気づかず、どうやらつい先日男の本懐を遂げたらしい部員のひとりを勇者と讃え、崇めている。
サッカー部はバカとエロの巣窟だ。
口を開けばくだらないことしか言わず、抜き打ちの部室検査があれば、どうやって隠していたのだというほど大量のエロ本やらAVやらが発見される。
自分は、こんな低俗な奴らとは、まず関わりあいたくないと常々思っていた。
なのになぜ、こうしてエロバカどもの巣窟を訪ねてきたのかといえば、やっぱりサッカー部の奴がバカだからだ。

「それで、高木。おまえはどうなんだよ。例の秀才メガネとは」
高木、と聞こえた名前に、心拍数があがった。高木は、同じクラスのチャラけた男だ。

「メガネって言うなって言ってんだろ」
高木は、鼻にかかった声で、少し怒ったように返事をしてから、くしゅん、と、ひとつくしゃみをした。
「悪い悪い。つーか風邪?大丈夫かよ」
「大丈夫。これはメイヨのフショーってやつだから」
「はあ?なにそれ」
「いやほら、昨日午後から急に雨降ったじゃん。そんでまあ、帰りに、例の、あいつがさ。傘なくて困ってたから」
「おまえの傘渡して、自分は濡れて帰ったってこと?!」

やべぇ、かっけぇ、おまえ男だな。などと口々に言い、部室の中の男たちはいっそう騒ぎ立てる。
「でも俺テンパっちゃってさあ、あいつの顔見れなくて、無言で傘押しつけただけで逃げちゃったから、絶対に不審がられてると思う」
すん、と洟をすする音が聞こえる。
「だから、もしかしたらキモい奴って思われて嫌われたかも」
鉄の扉を勢いよく開いた。
部屋の中で輪になって座りこんでいる7、8人の男たちが全員ぽかんとした顔でこちらを見あげている。
「高木。これ、返しにきた」
「は……はい!」

立ち上がった高木が輪を抜け出て目の前まで寄ってきた。その顔は真っ赤だ。
傘を手渡すと、うっかり触れた指は驚くほどに熱かった。
「おまえが授業さぼるから、放課後まで渡せなかった」
「あ、ご、ごめん。わざわざ、ありがとう」
「違うだろ、バカ」
ごめんもありがとうも、おまえの台詞じゃないだろう。授業だってさぼってたんじゃなくて、保健室で休んでたんだろうが。

「バカなんだから、風邪なんかひくんじゃねえよ」
ポケットから取り出した使い捨てカイロを、高木に押しつけた。
「え、なに、え」
「……ありがとう」
恥ずかしくなって、高木の顔から目線をそらす。
高木の体は震えだし、高木の後ろに控える部員たちも、なぜか目を輝かせて震えていた。

「お、おお、俺!風邪ひかない!ありがとう!カイロ一生大事にする!」
風邪は既にひいてるんだろうが。そしてカイロは使い捨てだ。使ったら捨てろ。
まったく本当にこいつは。こいつらは。
「……ばーか」
言い捨てて部室を出た。
鉄の扉が閉まった瞬間、堰を切ったように扉の向こうが騒がしくなった。

よかったな、おめでとう、俺なんか泣けてきた、と、高木を囃したて、賛美する部員たちの声を背中に聞きながら、早足で部室から遠ざかる。
バカでエロくて、どうしようもない奴らの集まりだけど、まあ、嫌いじゃない。
むしろ。
「うわああ!どうしよう!カイロ、一生大事にしたいけど、正直おかずにしたいこれ!これでしごきたい!じれんま!」
前言撤回。やっぱりおまえら嫌いだ。