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3対3

子供の頃から地味で運動も苦手だった。
もちろん友達なんていない。
そんな僕にとって学校は息苦しい場所でしか無かった。
家に帰って祖父の家庭菜園を手伝ってる時だけが僕のホッとできる時間だった。

だから高校に入って園芸部に入部した。
人付き合いが苦手な僕にとって部活必修という校風は重荷でしか無かったが、
男子校で園芸部に入るヤツなんて、どうせ僕と同じような人種か幽霊部員くらいなものだろうと思っていた。

だが僕は甘かった。
脅威のメガネ率85パーセント、県内でもトップの進学校では
こんな場末のクラブ活動すら真面目に参加する。
限られたスペースで野菜を育てるか、花畑にするかなんてどうでもいい事を真面目に討論してしまうくらいに。

僕は野菜を育てたかった。
収穫すれば食べられるし、花なんて見てもつまらない。
第一、男子校で花なんか育ててたらクラスの奴らに笑われるじゃないか。


意見は割れて3対3、敵のリーダーは花屋の息子の花村。
ベタなのは名前だけじゃなく、いかにも花屋が似合うような優男。
多数決では同点、みんな同級生、完全に対等なはずのに
残りの15パーセントの人種、つまりメガネをかけていないモテそうな男がいるだけで
どうしてこうも負けたような気になってしまうのだろう。


811 名前:2/2[sage] 投稿日:2011/11/20(日) 21:00:12.64 ID:Z2ngMiP40 [2/2]
僕らのような人間が穏やかに学園生活を終わらせるには、できるだけ地味に空気でいる事が大切だ。
からかいの対象になるなんて考えただけでゾッとする。

「で、ですから野菜を育てるという事はこの国の食糧問題、自給率について考えるキッカケでもあり、
 食という文化だけでは無く、人間が生きる根幹である食という観点からフレキシブルに、
 そしてアグレッシブに学べる、まさに総合学習にはうってつけの題材で……」

本音で語れば議論に負ける。
最終的に顧問の判断になるのなら、大人受けの良さそうな理由を並べて煙に巻くしかない。

「そういう事じゃなくってさ……」
花村が面倒臭そうに僕の主張を遮る。

「お前、そうやっていつも下向いてつまらなそうな顔してるだろ?
 少し顔を上げてみろよ。
 世の中には楽しい事もキレイな景色もいっぱいあって、それは無駄に見えても無駄じゃないんだよ。
 俺はお前にそういう景色を見せてやりたいんだよ」


たったそれだけの言葉だけで僕の世界が大きく変わったような気がした。


心の中に花が咲くような錯覚。

その花はいつか枯れてしまうかもしれない。
誰かに踏まれてしまうかもしれない。
それでも手を差し出さずにはいられない。

顔を上げると花村は照れもせず僕を真っ直ぐ見つめている。

来年の今頃は学校中に花が咲き乱れているだろう。
そんな景色を想像しながら僕はまだ何も無い花壇を見ていた。

いつも下を向いていた。
見上げたら君がいた。

僕の中に咲いた花もいつか君に見せてあげられたらいいのに。
君がいなければ決して咲くことの無かった小さな花を。