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彼女持ちクール攻め←ウザ可愛い受け

「あっ先輩! 先輩せんぱいせんぱいうあああ今日も可愛いいぃい!!」
「……わあ、今日も相変わらずキモいねー」

今年ももうぼちぼち終わろうとしている、今日この日。
さすがに四月当初のような不覚は取らなくなった。
踏みとどまってしゃんと立っていられるようになったし、さすがに慣れたもので
冷静な反応が出来るようになったと思う。
自分よりタッパのある後輩に背後から思いっきり抱きつかれるのは、
やはり慣れていないとすぐにバランスを崩してしまうから。
こんな状況に慣れるなんて、甚だ不本意ではあるけれど。

――我が家を出て高校へ向かう道程、三つ目の曲がり角。
朝この道を通ると、決まって後輩がこうして奇襲をかけてくる。
もはやこれは毎朝の日課と言ってもいい。

「お前さあ、挨拶もなしに『それ』ってどうなん?」
「あー先輩があまりにも美人で忘れてました。おはようございました」
「マジないわ……」

背中にずっしりと感じる後輩の体重をいなしながら、遅刻しないよう精一杯の
早足で『待ち合わせ場所』を目指す。遅刻するわけにはいかない。
ふと生温かい吐息が項を擽った。

「うっふおおお……! 先輩、今朝シャンプー変えましたよね? ねっ?
 なんか今日はもぎたてフレッシュな匂いががが」
最後まで言うのを聞かず、お仕置きがてら奴の頭に渾身の拳骨をひとつ。
「スーハーすんな」
「だって先輩いい匂いするんですもーん。俺の周りの奴らってば、みーんな常に
エイトフォー臭いんですよ! シトラスじゃ隠しきれない別の意味で酸っぱいかほり……」

「いや筋肉ダルマがフローラルな香りだったら、それはそれでキモ……ん?」


首筋に押し付けられたやつの鼻を引っぺがしたい。
痛がるかは実際どうでもよかったけれど、思い切り引っ張ってやるつもりで後輩の髪を乱暴に掴んだ。
すると。
「あれ……なんかお前、シャンプーのいい匂いしね?」

空気に溶けるような甘い香りが、髪の隙間からふわり漂った。
思わず手を離し、消え入りそうな残り香を深く吸う。
甘い、いいにおいだった。

「そうですかね。自分じゃ分かりませんし」
自分の毛先の匂いを嗅いでみたものの、後輩自身の満足がいく匂いは得られなかったようだ。
ふぅんと曖昧に頷いたが、ここで普段の仕返しを思いつく。

毛先に夢中でいる後輩に向き直り、(悔しいことに)幾ばくかある身長差を利用して
やつの肩に顎を乗せる形で抱きついてやった。
そうして身を乗り出してやつの耳の後ろに鼻を擦り寄せれば、面白いもので
「ああば先輩がせんかわいぴあにでふjrふじこ」などどどこか外国語を喋り出す。

すう、と胸いっぱいに髪の匂いを吸いこんだ。

「っ……ふひゃっ? わわ、うわ、わっ!」
「お前もいい匂いすんじゃん。これが分からないなんて勿体ないなー」
「うわわわわわすみませんごめんなさい! 汗臭いでしょすみません!」

意趣返しのつもりだったが、どうやら思った以上に動転させているようで可愛い。
噛んだり舐めたりしたなら、きっともっと慌てるんだろう。
ちょっと試してみたくなった。

「す――すみませんでしたああ! もうしませんからあっ!!」
「あいたっ」
不意をつかれて突き飛ばされる。体格差も手伝って尻もちをついてしまった。
今度は突き飛ばしたことに対して「すみません」を連呼するやつを見て、
たった今思ったことと起こったことがじわじわと実感を伴って訪れる。

(かわいいとか、)
(かわいいとか……!)

顔が赤くなっていくのが分かる。やばい、これは一体なんだ。
無言で反応もないことで更に不安を煽られたらしく、後輩がだんだん早口になっていく。
バカだこいつ。もう何言ってんのか分かんない。

それを念仏のように聞き流しながら、俺は『待ち合わせ場所』に佇む 
『彼女』の姿に気付いた。
一緒に登校しようと約束しているのにも関わらず、後輩の奇襲攻撃のせいで
いつも約束の時間から少し遅れてしまう。
今日こそ遅刻するわけにはいかないと、あれほど胸に誓ったのに。

大事なのは彼女、かわいいのも彼女。
いつも遅刻ぎりぎりになりそうなのに一緒に登校しようと言ってくれる彼女。

(かわいいなんて)

思ってない。そう結論付けて、輝くような彼女の笑顔に向かい走り出した。
置いていかないでくださいぃなんて情けない声には、
もう明日の朝まで耳を貸してやんない。



「――うーんけしからん。もっとやれ」

先輩と後輩がじゃれついているのを、斜め45度からそっと観察。
こちらにはまだ気が付いていないようだけれど、
実は背後から抱きつく瞬間からばっちり心のシャッターに納めている。
先輩は可愛いし身長も低いけれど、案外毒舌だし裏表あって萌えるし。
後輩は結構がたい良いけど、料理好きなとこもあってギャップに萌えてしまう。

「うんうん、これがあるから一日がんばれるのよねー」

例え遅刻ギリギリになったとしても、このやり取りを拝めるなら毎朝一緒に登校しようじゃないの。
自分の恋愛よりホモ萌えを優先してしまう部分、私は相当歪んでいるようだ。
にやけ顔を隠そうとして不自然に歪んだ顔を叩き、輝く笑顔を張り付けて。

「先輩、後輩くん! おはよう!」

今日も『待ち合わせ場所』で、彼らを待っている。