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イー

ここしばらく、呼び出しがない。
僕はじりじりした気分で、部屋を歩き回っていた。
…現場にいかないと、あの人に会えない。
現場の仕事は辛い。
いつも泥まみれになるし、傷だらけになる。時には命の危険もつきまとう。
だけど彼に会えるのは、唯一そこだけなのだ。
寝床の下から、そっと彼のブロマイドを取り出す。
彼は人気者だ。
どうしても彼のブロマイドが欲しくて、でも店に行くのは恥ずかしくて、インターネット通販でこっそり手に入れた。僕の宝物だ。秘密の。
写真の彼は素顔のまま、こちらに優しく微笑みかけている。
実際の彼は、僕には決してこんな顔を見せてはくれない。
僕は彼の、敵だから。目に入れる価値もない、十把一絡げの捨て駒だから。
僕はグズでのろまで、役立たずだ。出世もできず只散ってゆく、末端の末端の下っぱだ。
だけど、だから彼に出会えた。
現場労働以外何もできない馬鹿でよかった。コンプレックスであった頭の弱さですら、今は誇りに思う。
そっと、指先で彼の輪郭をなぞる。切れ長な瞳。引き締まった頬。薄い唇。
硬そうな髪の毛。だが、触れれば案外柔らかいのだろうか。…触れる機会はきっと死ぬまで無いけれど。
写真の彼にそっと唇を寄せた…その時。


『全所員に告ぐ!"矢追幼稚園、園児誘拐作戦"失敗!HOMOレンジャーが此方に向かっている!至急出動せよ!繰り返す!至急出動せよ!』
「イー!!!」
僕は唯一発せる言葉を叫び、喜び勇んで外に飛び出した。