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数学教師

馴染みの店のいつもの席。テーブルの向かい側には、いつものアイツ。
3軒隣の住人かつ幼なじみで大学の後輩が酒を飲んでいる。
「…でさぁ、金子センパイは就活どうするの?もう決めちゃった?」
「まだだけど、いくつか考えてる」
「何、何!?教えてよ、減るもんじゃないし~、ね?」
「とりあえず教職とろうかと思ってる。数学の」
俺がそう言った瞬間、何故コイツは不機嫌な顔をするのだろうか。昔からすぐに顔に出るやつだ。

「ダメだよ。数学教師なんて。ぜってー向いてない」
「小中高とお前に算数と数学を教えたのは誰だ?ついでに浪人生の時も」
「人に教えるの面倒くさいって言ってたじゃん。やっぱ向いてないよ」
「確かに面倒だけど、やりがいはあるよ。お前が大学に合格した時とか」
「…でもダメだよ。約束したじゃん…忘れちゃった…?」

約束?何のことだ?
「ゆーくん言ったじゃない。『面倒だからお前にしか教えない』って。中学の時、覚えてない?」
確かにそんなことを言った記憶はある。
コイツを含む数学ができない部活の連中が家に押しかけてきそうだったから、とっさにそう言ったんだった。
結局、コイツは部屋に上がりこんできたから数学を教えてやったが。
「オレ、すっごく嬉しかったんだよ?だから、ゆーくんはオレだけの先生なの!他のヤツに教えちゃダメなんだって!」

俺のことをゆーくん呼ばわりするのは、大分酔ってきたせいだろう。
ゆーくんがいつしか金子になり、浪人して学年が1つ下になってからは先輩までつけるようになった。
人は大人になれば変わるものだと思っていたが、コイツは根っこのところは変わっていないらしい。
ゆーくん、ゆーくんと俺の後ろにくっついてたあの時のままだ。
そして、それを鬱陶しい、面倒くさいと言いつつ構ってやる俺もあの時から変わってない。変わらなくてもいいよな。

「とりあえず帰るぞ。俺の部屋に来い。あと、俺はお前専属の数学教師だからな」
「…うん!!分かった!!」
どうやら1つ目の内定が取れたようだ。