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お前が受けなの!?

「き、緊張する、よなぁ」
「…………」
コイツは、とてもクールな男だ。
初めて会った、一目見た瞬間から、何故か分かった。
コイツは無愛想で無骨で無表情で無口で、そして、一本気で一途な格好良い男なんだろう、と。
俗に言う、一目惚れ、というやつらしい、と紆余曲折を経て気付き、紆余曲折を経て距離を縮め、
紆余曲折を経て互いに同じ思いを共有していたことに気付き。
そんなこんなでようやく迎えた今夜、今日もコイツはとてもクールだった。
ヘラヘラ笑いつつ変な汗を掻く自分と違って、さほど表情に変化はないし、言葉も少ない。
これだからコイツのくれる想いに長らく気付かなかったのだが、今では多少は分かるようになった。
例えば今、身体はベッドの上で向かい合いつつも、顔はプイと横に向けてしまっている、これは「恥ずかしながらその通り」ということだ。
多分、そういうことだ。
……というか、コイツの感情を勝手に解釈する権利を、コイツはオレにくれたのだ。
『全部、お前の好きな風に取っていい』
コイツがそう言ったから、オレは好きな風に…"お前はオレの事が凄く好きで、愛しちゃってるのだと解釈するぞ”と伝えたら、コイツはそれに頷いた。
あまつさえ僅かに微笑んですら見せた。
とてもクールな男であるコイツが、だ。それまで口の端一つ上げた事の無いコイツが、だ。そこが大事だ。
コイツが手をそわそわさせていたので、手を握ったり。
コイツが腕をフラフラさせていたので、腕を組んだり。
コイツが足をグラグラさせていたので、膝に乗ったり。
好きなように解釈して、そうする度にコイツは少しだけ微笑んでくれた。
そのことがとても嬉しかったから、オレも嬉しさ全開で笑った。
オレが犬なら多分今頃シッポなど激しく振りすぎて彼方へ飛んで行っている。
そのくらい嬉しくて、楽しくて、幸せで……オレたちはこれでいいのだとコイツの微笑みがいつも教えてくれた。
コイツが出す小さなサイン、時には目にも映らないサイン、それをオレが読み取って、こうだろうなと、時にこうだといいなと解釈し、それを事実として受け止める。
それでいいのだと。
そして、今夜、だ。

俗に言う初夜、と言うヤツだ。
いや、結婚したわけではないから正しくは違うのだろうが、初めては初めてなのだ。
彼とするのが初めてなのは勿論、正真正銘、人生で初めてなのだ。
彼もそう言っていて…お互いに…初めての…同性だけど、心底惚れた相手との…せっくす。
改めてそう思うと嬉し恥ずかし過ぎて、ワーキャー叫んで走り出したいような、そんな気分で高揚する。
しかしあまりにもアホ過ぎる姿は見せたくないので、ワハハ、と何となく笑って誤魔化す。
彼はこんな時も変わらない。
クールでクールでクールだ。ついでにクールだ。
でも多分内心はテンパってる。オレがそう解釈するならそうなのだ。
笑っているオレに『何がそんなにオカシイんだ?』そんな疑問を抱いている。
「悪ぃ、オレもギリギリでさ。でも、凄い…嬉しいっていうか」
『……俺も、嬉しい』そんな事を、考えてる。
「どうしよ。やっぱ……ここは、キスから、かな?」
『……多分』不安混じりの同意を。
とか、全部オレの一人芝居みたいなもんなんだけど。
でも、そこには確かに、彼がいるから。
「………あーッやっぱ緊張する!!!ホテルとか!ベッドの上とか!夜景見えちゃってるとか!」
耐えきれずベッドの上で立ち上がって、つい、バインバイン飛び跳ね出すオレ。そう、アホなのだ。大丈夫、分かっている。
分かっちゃいるけど止められないのが大丈夫じゃないけれど。
「恥ずかしーーーーーーーーーー!!!」
初夜なのと、アホなのと、両方の意味で何だか彼と面と向かっていられなくて、シーツの中に顔を鎮める。
シーツが冷たいのか、オレの顔が熱いのか、やけに気持ちいい。
しばらく、彼の視線に耐えられるまで、そうしていようと思って、しばらくそうした。
少しは落ち着いて、何事も勢いだと、バっと顔を上げる。
相変わらず無表情な彼。先程から1㎜も動いていないようにも見える鉄面皮。
でも。その風情が何となく不安そうに見えて。
『オレとするのが嫌になったか?』と言っているようで。
「べ、別にお前とヤるの、嫌になったわけじゃないぜ!?うん!むしろ、オレがどんだけこの日を待ったかと…
 いや、だからってド淫乱ビッチ野郎だと思われるのも嫌なんだけど…!!」
「…………」
「オレ、お前と!その……セッ…クス、したいから…!」
そうだ、オレはコイツと、セックスがしたいのだ。
コイツがそうしたいなら、その、オレのケツだって、差し出してもいい。
多分、半端なく痛くて気持ち悪くてオェッてなりそうだけど。
コイツのなら、いい。
コイツの身体が発する全ての望みに、オレの身体の全てで応えたい。
脳みそが沸騰するほど、コイツが好きだ。
好きで、好きで、好きで…好きだ。
オレは無口じゃないけどアホだから、あまり上手い言葉が浮かばない。
こんな想いを、どうやって言葉で伝えられる?
分からないから、ただじっと見つめた。
鉄面皮が、僅かに俯く。
『……良かった』そう言った気がした。
「…なぁ…お前も、オレと……したい?」
『ああ、したい』そう思ってくれてる。コイツなら。
言葉はない、表情も変わらない。
でも不意に、きゅ、と、手を握られる。
腕力握力共に並以上のコイツにしてはあまりに弱いその触れ方に、胸の奥がキュンとした。
「なぁ…お前がしたいこと、全部して。お前なら、何でもいい…何でもして…」
うっとりした気分でそう言った。
本気だった。

「………………」
それから、数分。
もしかしたら、数十分。
どうなったかというと、どうにもなっていない。
弱々しく握られた手以外、指一本触れられない。
無表情な顔が、いつもより少し強張っているようにも見える。
勝手に解釈するなら。
「……オレ……魅力ない?」
泣きそうになりながら聞くと、コイツは首を振った。
魅力が無いわけではないらしい、が、何だか変な顔をしている。
といってもやはり無表情なので、何となくそんな気がしただけなのだが。
困惑したようなその雰囲気を、何とか解釈してみるとするならば。
『……何でも、していいのか?』とかだろうか?
「………えっと………さすがに、その、あんまマニアックなのは、初っ端はちょっとアレだけど……
 いや、どーしてもお前がしたいならさ、そりゃ、オレも何とか頑張ってみるけど、っていうか…」
『そうじゃなくて…』
どうも、違うらしい雰囲気だ。
何だろう。
勝手に解釈して良い、というのはこういう時に難しい。
何か行動があれば解釈しやすいのだが、さっきからコイツはピクリともしない。
普通、好き合ってる同士でベッドの上にいて、熱烈な愛の言葉を告げられたら、もう少し何かあっても……
と、そこまで考えて、思った。
もしかして。
「……お前、ひょっとして、オレと同じ事考えてた…?」
「……………」
「オレになら、何されても良いって?何でもしてほしいって?
 触られても、舐められても?……ケツ、掘られても?」
ぎゅっと、握られた手に力が込められる。
少しだけ寄った眉間。
「……………」
それでも辛抱強く待ってみると、コクリと、小さく頷いた。
沈黙。
のち……爆笑。
「あははははは!!!そっか…お前も、そうだったんだ…!
 分かんねーよ!だって!お前、男だし!メッチャ男だし!!そりゃ、オレも男だけどさー!
 ってお前も分かんなかったよなーそりゃそうだ!!」
よく見れば、コイツもほんの少しだけ口の端が上がっている。
苦笑いにしてはやけに優しく見えるそれは、いつもオレの勝手な解釈を許してくれたけれど。
勝手に、都合良く解釈する事の、させる事の、根底にある意味。
卑怯だよな、オレも、お前も。
好き合ってるのに、何やってんだか。
オレは何だかとても爽快な、一皮向けたような気持ちになった。
「やっぱさ、お前、口下手なのは分かるけど、もうちょい頑張れ!
 んでさ、言おう!したい事をさ!オレも、お前の気持ち伺うの止めるから!
 オレ、お前の事好きだし!先に進んでいきたいし!」
「………分かった」
「足りない!」
「……………………………………好き、だ」
オレは今まで恋人から、そんな言葉も聞いた事がなかったのだ。
嬉しい。嬉しい、嬉しい、嬉しい!
「お前が、好きだ……………」
確かめるように噛み締めるように言葉を絞り出すコイツが、イトオシくて堪らない。
「オレさぁ、お前を触りたいし、触られたい!」
「………オレも」
「もうちょい!」
「………さ、……触りたい。お前に…触られ……」
「よし!そうしよう!!!」
今まで、楽しかった。
あれはあれで良かった。
でも、多分これからはもっと楽しくなる。
そんなことを思いながら、オレ達はしたい事をして、そうやって初夜を迎えたのだった。


結果。
「お前が受けなの!?」
オレ達の悪友でありオレ達の恋愛の立役者でもある女が、俺たち2人を交互に見てそう宣った。
どうもオレ達の夜は、傍から見て意外過ぎる所に着地したらしい。
根掘り葉掘り聞いたのはソッチのくせに、失礼な反応だと思う。
「でも、俺達が、そうしたいから」
そう言ったコイツを、オレは好きで好きで、好きだ。
多分、今までよりも、ずっと、ずっと。
愛したい。
そう思う。