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ツンデレの逆襲

「受野さん、とうとう俺たちも卒業ですね」
「そうだな。これでお前との鬱陶しい毎日ともおさらばだ」
「何でそんなこと言うんですか!俺はこんなに受野さんが好きなのに」
「それが鬱陶しいって言ってるんだろ。言うにつけてはやれ『受野さん好きです』だの『受野さん愛してます』だの……」
「だって、本当に好きなんですよ。言ってるでしょ、入学式であなたを見た時から俺は」
「その話も聞き飽きた。何度お前に愛を囁かれてもだ、とにかく俺は……」
「受野さん……」
「……いや、いい。何にせよ、この話をするのも今日で最後だ。今日ここで、俺はお前との関係に蹴りをつけようと思う」

そう言って受野さんが指を鳴らすと、突如物陰から大勢の男達が現れた。
ラグビー部や柔道部で見た厳めしい顔や、逆に学校では滅多にお目にかかれないような筋金入りの不良までいる。
中でも背筋を震わせるのは、皆が皆俺を見ては嫌な笑みを浮かべたり、指を鳴らしたり、ポケットからナイフを出し入れしたりしているところだ。
遠くには、黒塗りの車で乗り付けてこちらを伺っている者もいる。
似たような情景を、俺はテレビや小説で見たことがあった。これは……『御礼参り』だ。

「はは、お前のような馬鹿でもさすがに察しがつくようだな。」

受野さんが、見たこともないような鋭い笑みを浮かべて呟いた。

「そうだよ、今日だけのためにこれ程の人数を集めたんだ。なぁ……いい加減理解できただろう。俺はな、お前が鬱陶しくて堪らなかったんだよ。」
「……それは……」

喉がカラカラに渇き、指先が冷えて震える。
今すぐにでも膝をついてしまいそうな絶望は、果たして自分が私刑を受ける恐怖からか、それとも此ほどまでに受野さんに嫌われていた現実からだろうか。

「これでようやく言えるよ。攻山、本当はな……」

不良の一人がナイフを構えるのが、目の端に映る。
受野さんはゆっくりと息を吸い、叫んだ。


「俺の方がずっと好きだったよ!!」


……え?
固まる俺。
崩れ落ちる膝。
歓声が上がる暴漢の群れ。

狂喜乱舞の騒ぎの中、当の受野さんは耳まで真っ赤になりながらなおも言葉を続けた。

「それが何だ!お前は口を開けば好きです愛してますと!鬱陶しい、まるでお前の方がずっと俺を好きみたいじゃないか!そんな事は断じてなかったのにだ!」
「鬱陶しかったよ!最高に鬱陶しかった!俺の気も知らず遠慮もなしに気持ちを伝えてくるその不躾さも!その割にいつまでも敬語で話しかけてくる腰の低さも!……いつまで経っても名前で呼んでくれない余所余所しさも……」

そこまで言うと受野さんは少し涙声になり、ぐすりと鼻を鳴らした。
すると、受野さんの後ろに控えていた屈曲な男達は急に静かになり、小声で「がんばって!」「もうちょっと!」などと応援し始めた。……まさか、この男達は御礼参りのために呼ばれたのではなく……

「いいか!俺は今日でこんな毎日とはおさらばする!攻山、俺と……付き合え!」

目の前には、ただ男らしく突き出された受野さんの手のひらがあった。
地べたにへたりこみ未だ呆然としたままだった俺は、その手の上に操られたように自分の手を載せる。
途端、今度こそと言わんばかりに校舎を割るような雄々しい歓声が上がった。

「受野先輩おめでとうございます!」
「受野くん、よかったねぇ!」
「これで俺たち『受野・攻山を見守る会』もようやく本懐を遂げられるよ!」
「受野さんったら最後の最後で俺たちに『ついて来てほしい』なんて言うんだもんなぁ」
「可愛いよなぁ全く」
「受野さん、車のトランクにケーキ積んできましたよ!」
「じゃあ早速ケーキ入刀ですね!」
「スンマセン、こんなちっさいナイフしか用意できませんでしたが……」
「俺、ピアノ弾きますね!」

真っ赤な受野さんと真っ白な俺とを残して、『受野・攻山を祝福する会』の垂れ幕が盛大に掲げられる。
たまらず突進してきた男達の群れに揉まれ、受野さんと二人高々と胴上げされながら、俺はこの先の……幸せで、そして予想以上に騒々しいであろう日常に思いを馳せたのだった。