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殺したくないけど殺す

二月だというのに、暖かく晴れた日。
両親と兄と僕と、家族総出で食事に出かけた。
そこで顔を合わせた男性に、僕は息を飲むほど驚いく。
数年間、会いたかった人だった。
僕が初めて付き合った彼と別れて、飲み屋で泣きながら飲んでいた夜。
たまたま隣の席に座ったオジサンが、「生きてると嫌な事も泣きたい事も沢山あるな」と慰めてくれた。
クヨクヨするな、泣くな!といった励ましでも、我慢しなくていい、泣いてもいいんだと甘やかすでもない、自然体で慰めてくれて僕の気分は随分と楽になった。
もう一度会いたくてその店に通ったけど二度と会うことは無かったし、店長に聞いても初めての客だったらしく覚えてもいなかった。
その人が今、目の前に居る。
奥さんは五年前に病気で亡くされ、一人娘を男手一つで育ててきたそうだ。
知りたかった名前も、年も、住所も知る事が出来た。
けれど……。
芽生え始めていた僕の恋心は、押し止めなくてはならない。
好きというこの気持を、殺したくはないけど殺す。
何故なら、その人は僕の義姉となる人の父親だった。
僕と違ってちゃんと会社に勤めている真面目な兄と可愛いタイプの彼女は、きっと幸せな家庭を築くだろう。
この二人の為にも、結婚を喜び楽しみにしている僕の両親と彼女の父親の為にも、僕はほのかな片思いに終止符を打つことにした。
再会できた喜びよりも、失恋のにがい苦しみが心に広がっていった。