※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

その弱さと醜さを愛す

「・・・いい加減帰ろうぜ、ほら」
立てよ、と脇の下に手を入れて持ち上げると、唸り声と共に手を振り払われた。
「んーだよ・・・いいだろ別に・・・すいませぇーん、これおかわりぃ」
「ああいいですいいです!帰りますから、おあいそお願いします」
心配顔で寄ってきた店員に、愛想笑いを浮かべながら伝票とカードを差し出した。
「水村くんいつにもまして飲んでたね、大丈夫?タクシー呼ぼうか?」
もう顔馴染みとなってしまった店長が困ったように笑いながら声を掛けてくるのに、
大丈夫ですから、と首を振った。
「こいつ今日は俺んち泊めるんで」
「そうだね、そのほうがいいかもね、」
ああちくしょー!なんであいつが・・・あいつのが・・・・・・、急に大声をあげる水村に
ぎょっとしてそのうつ伏せの背を見つめた後、店長と二人顔を見合わせて苦笑した。
ぐっと声のトーンを落として、店長が「・・・また?」と問いかけるのに頷いた。
「・・・ええ、またコンテスト落ちちまって・・・・・・今度は最終選考までいってたから余計・・・」
「そっか・・・つらいとこだね」
支えてあげなよ、友だちなんだからさ、と軽く肩を叩かれて、曖昧に笑顔を浮かべた。
友だち。その言葉に胸の奥がギリと焼け付くように疼いた。
「―――じゃあ、ごちそうさんでした」
俺は水村の肩を抱いて、店を後にした。
「うん。あっ、今度またメニューの写真撮りに来てって云っておいてね~」
背中に届いた店長の言葉に片手をひらりと振って答えた。

はあ、と吐き出した息が白く立ち上る。
俺とそう身長は変わらないとはいえ、酔った千鳥足の男を支えて歩くのはいささか辛い。
「・・・・・・檜山ァ」
「んだよ起きてんならちゃんと歩けよな」
いつも自信満々怖いものなしって水村の顔が歪んでいた。
俺のすぐ横で、水村が囁くように吐き出す。


なぁなんで俺の作品じゃ駄目だったんだよ、最優秀とったやつの写真、お前も見たろ?
あんなの誰だって撮れるじゃねぇかよ、露出と倍率と・・・あんな小手先の技術で撮った作品の
何処がいいんだよ・・・俺なら、俺ならさぁ・・・
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら水村が何度も呟く。畜生、畜生・・・なんでだよ・・・・・・。
俺の肩口を濡らしながら、水村は今日何度目か知れない愚痴を零した。
俺は何も云わずに、ただだらだらと頬を伝う水村の涙は甘いだろうかだなんて
馬鹿なことを考えていた。
「・・・審査員の奴ら目がないんだよ。
大丈夫だって、絶対いつかお前の凄さに気付くひとは出てくるって」
「そ・・・かな、お前がそういうんなら、そうかもな・・・・・・」
やっとぎこちなく笑顔を浮かべた水村の目じりからつ、と涙が零れ落ちた。
なんとなくそこから目を逸らしながら俺は空を仰いで、馬鹿みたいに明るい声を出した。
「そうだよ。水村は立派な写真家になって、
そんで毎晩お前の奢りで飲みに行くのが俺の夢なんだからさ」
だから諦めてもらっちゃこまるんだよ、と云うと、
馬ッ鹿お前ふざけんなよ、と水村は笑って俺の頭を軽くはたいた。
ああいってーと俯いた先のアスファルトに向かって俺は呟いた。

立派な写真家なんかにならなくていい
お前の価値をわかるやつなんて、俺以外誰もいなきゃいいのに

コンテストに落ちるたびにこうやって弱音を吐いて、
愚痴と不満と憤りでぐちゃぐちゃになるお前が好きなんだ。
こんなこと云えるのはお前だけだよと泣きそうな顔で云って、
そんな些細な言葉に俺は一喜一憂して、泣きたくなって、
次のコンテストこそ賞取れるといいなと唇に乗せる言葉は本当なのに、
でも一生賞なんて取れずに終わればいいんだと思ったり、
俺は頭のなかがぐちゃぐちゃになって、罪悪感とやるせなさと嬉しさと苦しさで
どうしようもない気持ちになっていることをお前は知らないだろうし、
こんなどうしようもない俺を、お前は一生知らないでくれ。

「なあ、水村・・・・・・次のコンテストこそはさ・・・」

その次の台詞を俺は知らない。