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騎士

「……来た、か」
暗闇の中、低い声が静謐な室内に凛と響く。玉座に在りし王は謁見の間の大扉が開くのを目にし鋭い視線をそちらにやった。
喧騒はもうすぐそこまで迫っている。血の香を纏う空気がどろりと流れ込んで来る。
窓から見下ろした庭はかつて神の苑と謳われた面影はなく、ただ薔薇より赤く染まっていた。
「……」
越権の間に入り込んだ男が持つは赤い雫を滴らせた斧、ゆらりゆらりと歩く様子は既に正気を失っている様子である。
「……王、おうは……どこに」
まるで精神を病んだかのように絶えず身体が揺れ無表情のくせに瞳は血走り、尋常でない雰囲気を放っている。目の前の男こそ王であるとは気づいていないようで、焦点のあわぬ瞳を向けて尋ねた。
王はその口元に笑みすら浮かべて、応えた。
「喜べ、暴徒よ……貴様の前にいる男こそ、この国を統べる王、クライスト=フォン=ルーデルだ」
その口上が終わるか終わらぬかの内に男の揺らぎがピタリと止まる。斧を振りかぶり雄叫びを上げて一足飛びに距離を詰めて王に襲いかかる。
その様を見る王は見世物でも見るかのように悠然と佇み除けるなど考えもしていないようだ。
「ーー王っ!?」
悲鳴が上がったのは王の首が木のように刈られる寸前で、斧は王の首の皮を僅かに切り裂くのみ。
斧を持った男の胸からは白刃のきっさきが顔を出している。斧が大きな音を立てて床に落ち、絶命した男もその上に重なった。男が倒れたことで視界が開け、男の後ろにもう一人男がいたことを知る。

普段床でしか表情を変えぬ騎士が、血相を変えて王の前に迫っていた。その尋常ならざる様子を愉快に思いながらもその無礼を注意しようと王が口を開いた。
「おいーー」
「馬鹿か? 何故逃げていないんだ!?」
王の言うことなど聞こえていないと言うように詰めより低く唸る。そのくせ、その瞳には安堵の色を浮かべていて、縋るように騎士に抱きつかれたら悪い気はしない。王は防具をほとんどつけぬ返り血塗れの己が騎士を優しく抱き締めた。
「お前がいねぇんなら、俺が逃げる意味はねぇよ」
耳元で低く甘く囁き、そして深く息を吐いた。生きてて、よかった。そっけないその言葉に騎士は思わず王の顔を見た。
王はその顔に笑みを浮かべながら、騎士の手を引いた。玉座を動かせばそこには外に逃れるための隠し通路があって、そこに身を滑り込ませる。
騎士は困り果てたような表情を浮かべるもこの王は一度言ったら他の者の言うことなど聞かないことはもうわかっているのだから、渋々とついていった。
狭く暗い地下道の出口が見えた頃、王は騎士の耳元でそっと囁く。
「さっきの無礼と、俺の服を血塗れにしてくれた礼は、たっぷりとしてやるから忘れんなよ?ーーケツの穴が俺の形になるまで嬲り倒してやっから」