勇気を下さい!

「お父さん!勇気くんを僕に下さい!絶対幸せにします、お願いします!」

目の前で必死に頭を下げる青年を、私は複雑な気持ちで見ていた。
それなりに真っ当に育ててきたつもりだった次男が、幼馴染である一也くんにもらわれていく。
二人を興奮気味に見守る妻と、ふすまの向こうにいるであろう長男。
男女男男男。本日はお日柄も良くお父さん息子さんを僕に下さい系土下座。
自分のいる空間の奇妙さに軽いめまいを覚えながら、一緒になって頭を下げている次男を見る。
いつの間にこんなに大きくなったのか。
小さい頃から泣き虫で、長男にけしかけられては色々と危ないことをさせられていた。
妻に似た切れ長の目元は、笑うたび綺麗に下がる。
二人が一緒にいるところは、昔から良く見かけた。
勇気の目尻は幸せそうに下がり、一也くんもまた、彼の家族皆がそうであるように口を大きくあけて笑っていた。
これから先の不安や問題など、問うだけ無駄なのだろうと二人の姿から思い知らされる。
「律儀な男だね、君も」
そう呟くと、場が一層静まり返る。
次の言葉に威厳はどのくらい必要かと悩みつつ、神妙な顔をする二人をもう少し困らせてやろうとも思う。
皆にとって一世一代のイベントだ。
私はおそらくラスボスという奴だろうから、夕飯のことでも考えて、難しい顔をしていよう。
祝い事だからやっぱり寿司か?
勇気はやっても穴子は譲らんぞ、息子達。


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最終更新:2012年03月04日 23:15