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アフロ受け

「鬼はー外!福はー内!」
田中さんは4~5歳の子供たちに紛れて無表情で俺に豆をぶつけてくる。
しかも本気だ。俺を鬼だと思ってるとしか思えない。
これでも園児から絶大の人気を誇っている保育士だ。
俺はと言えば、このアフロのせいで豆まきの鬼をやらされる始末。
「やめ、やーめーてくだっ、ちょ!」
「鬼のくせに口ごたえか。むかつく。ユウヤ、行け」
田中さんの命令は絶対であるらしく、もも組のユウヤは何の疑問ももたずに深く頷いた。
目がマジだ。
「オニはーそと!ふくはーうち!オニはーそと!ふくはーうちっ!」
ユウヤ近っ!至近距離はずるいだろ!アフロに豆を絡ませるのをやめろ!
「よーし、これくらいで許してやるか。もう来るなよ、鬼」
もっと初期の段階で出るはずであった台詞のお出ましだ。
「『く、くっそー、おぼえてろー』」
古典的な捨て台詞を吐いてお遊戯室から飛び出し、その足で職員室へ向かう。
「おー鬼。おつかれ」
田中さんが表情ひとつ変えずに職員室に入ってくる。
子供たちからもらったのか、その両手には豆が握られ、指の隙間から零れ落ちている。
服のポケットというポケットには豆がパンパンに詰め込まれている。
それらをコンビニ袋に移している田中さんを横目にして、思わずため息をひとつ。
「・・・俺アフロやめようかな」
「え?なんで」
田中さんの手が俺の頭に伸び、その感触を楽しむようにアフロを弄ぶ。
会うたびにこれをされるのも飽きてきたし。
「アフロさえやめれば、俺だって」
「駄目に決まってんだろ!」
突然の大声に、騒がしかった廊下が静まり返る。
「どうしたんすか」
「俺、お前のアフロだけが心のオアシスなんだけど」
「・・・そんなん知りませんよ」
なんだ、いつものからかいか。俺は心の中で胸を撫で下ろした。
でも、それにしてはいつもと状況が違いすぎる。
田中さんがここまで動揺してる顔なんて、俺は初めて見た。
「お前がアフロやめたら俺、生きていけないんだけど」
「ハァ?冗談やめ・・・え、田中さん?」
泣いてる!?
田中さんは俺を睨みつけると、顔を背けた。
「ううわ!オニだ!田中先生泣かせた!最悪ー」
突然、職員室を覗いていたらしい園児が俺を指差して叫んだ。
するとせきを切ったように園児からのヤジが飛び交う。
「アフロのくせに田中先生イジメてんじゃねー」
「そうだよアフロのくせに!」
「アフロのくせに!」
未だかつて、これほどまでにアフロでなじられた男が存在するだろうか。
数十人の園児の中には他の保育士も混ざっている。
「分かった、分かりましたよ!アフロでいますから!」
「やーった!」
見ると、田中さんは満面の笑みで俺のアフロにまとわりついていた。
そんなわけで俺のアフロ生活は当面続きそうである。