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変人でサイコな攻と、それにおびえつつも離れられず、ついついチョッカイを出すツンデレ

俺の考えが甘かった。
……だって大学のオープンテラスだったし、
昼どきは過ぎたけど、外はいい天気でたくさん人もいたし。
二人きりになったりしなければ大丈夫だと、どこかでたかをくくっていた。

テーブルの上にはたった今勝負のついたままのチェス盤と、剥がされた俺の手袋。
奴は剥き出しになった俺の左手を、両手で弄んでいる。
「……さて。どうしようか……」
他人の大きな手で無造作にいじり回されるなんてことに、俺の左手は免疫がない。
幼少期の怪我のトラウマから左手だけはいつも手袋をして過保護に扱ってきたのだ。
こいつは、そのことを知ってから、異様に俺の左手に興味を示すようになった。
将来を嘱望される才能あふれる若き助教授、というのはあくまで研究面だけの話で、
学内では有名な変人、触らぬ神に祟りなしと敬遠される胡乱な男。
そのうえ、人の弱点を隙あらば慰み者にしようと付けねらう迷惑きわまりない奴。
……で、それなのに、
何だって俺はそんな男についついちょっかいを出してしまうんだろう。

突然、奴がアイスティーのグラスを倒した。
中身が溢れてテーブルを濡らし、奴は片手で氷を掴み取ると俺の左手に押し付けた。
「……っ!!や、め……っ」
「勝ったほうの言うことを、この場で、何でもきく約束だろ?」
俺の左手に氷を握り込ませて、奴の手がその上からぐりぐりと揉む。
普段から外気にも触れない敏感な肌への刺激に、息は上がり目には涙が浮かんだ。
「……それは、っ……だから、なんかおごるとか……んっ」
「ふーん……まあ、じゃあそれでもいいけど」
そう言うと、奴は俺の左手から氷を取り上げ、自分の口に放り込んで噛み砕いた。
氷の感触から解放されて、心から安堵のため息が漏れた。
しかし、俺はこの男に捕まってしまったということを、甘く考えていた。
この程度で満足するような男でないことは、……気付いていたはずなのに。

「じゃあ、何か食べさせてもらおうかな、この子に直接。」
「この子」と言いながら奴は俺の左手を指でつつく。
「……は?」
「そうだな、ナポリタン……がいいかな。」
「……はい?」
「すみません、ナポリタンひとつ。フォークはいらない。」
「かしこまりました」
その日、俺は公衆の面前で男にケチャップまみれの左手を舐め尽くされるという
人生最大の屈辱を味わわされるのだが、その後雪辱をはらそうとするたびに
返り討ちに合い、次第に取り返しのつかない深みに嵌ってしまう事は
知る由もなかった。