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お前が好きなんだよっ、バカ!

「お前が好きなんだよっ、バカ!」

裏返った大声と表のドアがたてた派手な音に驚いて顔を出すと、ベテランバイト君がレジ前に立ちつくしていた。
ドアがまだ揺れている。……体当たりで開けたんじゃなかろうな。
うわー、他にお客さんいなくて助かった。
「杉浦君。杉浦くーん」
正面に回って声を掛ける。バイト君――杉浦君は、ようやく僕に気付いたようだ。
まだ口が半開きのままだけど。
「あ、店長……」
「今出てったお客さん、友達でしょ? あの子よく来てくれてる」
よね、と言い終わる前に、杉浦君がその場にしゃがみ込んだ。
「あ、ちょっと、大丈夫? ……喧嘩?」
……いくらなんでもあのセリフは店へのクレームじゃないだろう。
「ち、違うんです。喧嘩とかじゃ、なくて、急に」
椅子を引っ張ってきてなんとか座らせると、エプロンをきつく握りしめて震えている。
「体調悪いなら休憩する? 帰った方がいいかな。今日は僕一人でもなんとかなるよ」
「いえ、具合悪いわけじゃないです」
平気です、とは言うものの、顔はあからさまに真っ赤で目に涙が浮かんでいた。
「うーん。まあ少し休んで、落ち着いたら……」
次の瞬間、杉浦君が吠えた。
「俺が! ここでレジやってるって言ってから! ……ずっと、来てくれるから、すごく、ここの弁当好きなんだと思って!
 お薦めは絶対買ってってくれるし、店長のハンバーグ、凄く褒めてたし!結構オマケとかしてるし!だから、ここの弁当……が、好きなんだと思って……!」
興奮しすぎたのかそこで言葉が途切れ、今度は頭を掻き毟っている。
あー。……うん。なんとなく事情が解った。ような気がする。
こういう場合、僕としてはどうするべきか。非常に難しい問題なんだろうけど、まだガリガリやってる杉浦君の顔を見たら
これしか出てこなかった。
「やっぱり、今日はもう帰っていいよ。……早い方がいい」

エプロンも外さずに飛び出した杉浦君を見送って、念のためドアを点検する。よし、大丈夫。
……何が目当てでも常連さんが増えるのはありがたい。
あの子はこれからも絶対来てくれる。そう確信してしばらく一人でニヤニヤした。