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長針と短針と秒針

ああ、まただ。また君がやって来る。
ひょろりと背の高い君が僕の後ろをせかせかと歩いている。
君が近付いてくるのは嫌と言うほど分かっているのに、
鈍重な足しか持たない僕は、待つことも逃げることも出来ず、君が追いついてくるのを待つしかない。
君の歩みに合わせて心臓がとくとくと鳴る。
あと10歩。僕が後ろを振り返ることは出来ない。
あと5歩。心臓の音は相変わらず鳴っている。
とく、と心臓の音に合わせて、君が僕に重なる。
息が止まる。胸の奥がきゅっと締まる。
とく、と心臓の音に合わせて、君があっけなく追い抜いていく。
秘かに息を吐く。胸は張り詰めたままだ。
何度繰り返しても慣れないこの一瞬。
そうしてまた君が遠ざかっていく。
僕が心臓の音を数えている間に、君はまた僕の後ろからせかせかと近付いて、
そして一瞬だけ僕とすれ違う。

君のそのつれなさ。
きっと君は僕のことなど特に気にしちゃあいないのだろう。
けれど君は知っているだろうか。
君がそうやってせかせかと歩くことで、僕も一歩ずつ前へ進んでいくことが出来ることを。
僕が君に出会える一瞬を待ち焦がれていることを、君は知っているだろうか。

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ああ、まただ。また君が見えてくる。
きっちりと前だけを向いた君が僕の前で大きな大きな責任を抱えて足を踏みしめている。
君に近付いているということは嫌と言うほど分かっているのに、
拙速な足しか持たない僕は、止まることも声をかけることも出来ず、君をただ追い抜いていく。
留まることの出来ない自分の役目がもどかしい。
あと10歩。君の背中が見えてくる。
あと5歩。ああ、ここで立ち止まれればいいのに。
どの1歩よりも貴重な1歩で、僕と君が重なる。
息が止まる。胸の奥がきゅっと締まる。
どの1歩よりも恨めしい1歩で、君をあっという間に追い抜いてしまう。
秘かに息を吐く。胸は張り詰めたままだ。
けれど僕は前に進み続けるしかない。それが僕の仕事なのだから。
歩いていくと変わらず君にまた会うことが出来る。それだけを胸に抱いて歩き続ける。

君のその堂々とした様。
きっと君は僕のことなど特に気にしちゃあいないのだろう。
けれど僕はそれでいいのだ。
重い荷物を背負った君が一歩ずつ着実に前に踏み出していく。
その姿が僕は何よりも好きなのだから。
ああ、こんな僕が君に少しでも役立てることがあるのなら、そんなに嬉しいことはないのに。