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美人×強面

俺は甘いものが苦手だ。
食べられないほど嫌だというわけじゃないが好き好んで口にしようとは思わない。
だからこの日だけはチョコの一つも貰えない自分を誤魔化すことができる。
「完全に負け惜しみじゃないか」
「いや……本当に甘いものは苦手でな」
「でも貰ったら食べるんだろう?」
貰えるんだったら女の子の愛は欲しい。仮に貰ったとしたら喜んで食べる。
こんなことを言うと「そんな厳つい顔した男がよく言うよー」なんて茶化されるが顔は関係ないと思いたい。
「貰ったらな」
それにしても毎年のことながらこの日のこいつはすごい。美人で優しいのが女心くすぐるそうで市販のチョコや手作りチョコ。
本命に義理に友チョコなんでもあれだ。
一切貰えない――どころか目が合っただけで女性に怯えられる――俺を尻目に紙袋いっぱいになるほど貰う。
朝の時点で2袋、仕事後の今はなんと6袋。見てるだけで胸焼けしそうだ。
が、死ぬときは砂糖に埋もれて死にたいとまで豪語する甘党のこいつには余裕らしく3週間で全て食べきるらしい。
なんでこんなモンスターに世の女性は惚れるんだ。聞いてるこっちが吐き気を催しそうだ。
ふと周囲を見渡す。周りの男がこいつを見る目は怨念が篭っており俺を見る目はひどく優しい。
強面の男に恐怖を抱く前に同情するくらい俺の顔は気の抜けた表情をしているらしい。
意識を目の前のこいつから逸らしてこいつの無自覚な自慢から逃れたいなどと思っていると、
それを察したのか苛立たしげな様子で2つの箱を目の前にずずいと押し寄せてきた。
「うわっ! ……なんだいきなり」
「赤い包装にピンクのリボンが隣の部署の佐々木さんが作った奴だ」
「……マジか」
咥えていたタバコをテーブルに落とす。目の前のこいつはひどく仏教面だ。
そりゃそうだろう。なにもこんな日にわざわざ出向いてまで男にチョコレートを運びたくはない。
渋々とはいえ渡しに来てくれただけで御の字だろう。
……と、そうなるともう一つのこれは誰からのだろう。
「箱のは誰からのかわかったがこっちは誰からだ?」
「……私からだ」
「はぁ? なんでまたそんなことを……」
そう聞くと一瞬息を呑んで、すぐにいつもの様子に戻るとバカにするような表情でこう言ってきた。
「どうせ誰にも貰えないだろうから1つくらいやろうと思っただけだ……特に深い意味はない」
「あーそうですか」
相変わらず顔に似合わず失礼だな。せっかくチョコ貰っていい気分だったのに……同情でくれたのかよ。
……ん? あ? いや、せっかく佐々木さんからチョコ貰ったことだしこんな軽口放っておけばいいだけの話だ。
それなのに何故だろう、きつく胸が締めつけられる。
「お前のせいだ」
「は?」
唐突になんだと言いたげなこいつにあわてて口を押さえて。
「いやなんでもない! 違う話だ!」
「……嫌だったか?」
「そうでもなかっ……」
おかしいだろ俺、さっきなんて言おうとした。意味わかんない。
やばい、なんかやばい。このままここに居るともっとやばいことになりそう。
焦りながら伝票片手にレジに行き、走って店を出た。
逃げ出した俺の後ろを、貰ったチョコをそのままに追いかけてきたこいつに壁に押し付けられてキスされるのがその5分後。
その口がチョコレート味だと気がつくのが帰宅後のことだった。