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優しいキスをして

白百合のように清楚な純白のドレス。みずみずしい摘みたての白薔薇。華奢な金細工のティアラ。朝霧のようなヴェール。
もちろん、忘れてはいけないのは指輪だ。最高級の金剛石をあしらった、プラチナの指輪でなければ。
……うん、完璧。
ヴィルヘルムは、おのれの用意した婚礼用の一式をあらためて眺めて満足そうにうなずいた。
これなら、きっと満足してもらえるだろう。
「さて、これから準備だ。急がないとな」
なにしろ、これはサプライズなのだから。

「……それがコレか。このアホ」
トレイシーは、容赦なくしくしくすすり泣くヴィルヘルムを踏みつけた。
「人の家に忍び込んでドレス着て女装して薔薇しきつめたガラスの棺に入って眠ったあげくに酸欠だと!?
よっぽど見てみぬフリして昇天させてやったほうがよかったかドアホ! てめぇ脳みそ腐ってんだろ!」
昔から頭がおかしい奴だと思ってはいたが、今回ついにコレだ。本気で何かが決定的にかけているとしか思えない。
ある意味泥棒に入られるよりも心臓に悪い。
「だって……だって……」
「だってじゃねー! キモイんだよてめぇ!」
男が女装して女のように見えるなんてのはただの幻想だ。
顔が綺麗だろうと何をどうまとおうとも、角ばった肩やくびれのない腰はごまかせない。
女が男装しても場合によっては綺麗に見えるが、男の女装ほど気持ち悪いものはない。トレイシーはそう確信している。
「僕はただ……トレイシーにキスしてほしかったんだー!」
「さらにキモイわボケ!」
いきなり復活して襲い掛かる女装男に、トレイシーはカウンターパンチをたたきこんだ。
「おかしいよトレイシー! ガラスの棺によこたわった姫君がいたら、普通優しくキスするだろう!? そして結婚」
「おかしいのはその思考回路だ! 普通警察呼ぶに決まってるだろ!」
それ以前に、いくらガラスの棺によこたわっていても、女装した男は姫君にはなれないだろう。
……こいつと会話していてもらちが明かない。
トレイシーは額に浮かぶ青筋をごまかそうと努力しながら、にっこりと笑った。
「なあ、ヴィルヘルム。わかったから、ちょっと目を閉じてくれないか?」
「……! もしかして、キス、してくれるのか!?」
ヴィルヘルムはわくわくとした顔で目を閉じた。

ゴチン。

「うむ。やはりフライパンは万能なり」
床とキスをしてそのまま気絶したヴィルヘルムをガラスの棺に放り込み、ガムテープでぐるぐる巻きにする。さすがに、フタは閉めなかった。
「じゃ、おやすみな。ヴィルヘルム」
殴った額に軽くキスをしてやってから、トレイシーはベッドにもぐりこんだ。