僕(受け)には君(攻め)が眩しすぎる

光には、人間の可視できる種類として二つ挙げることができる。
太陽光のように全ての波長(色)の要素を均質的かつ強く反射し、白に見える光を白色光。
レーザー光のように一つの波長(色)のみからなる光を単色光。

周りの人間は彼のことを太陽のような人、と喩える事をよく好む。

温厚篤実かつ怜悧、そこに美形とくれば正に八面玲瓏、全てを照らし出す光だ。
しかしそれは私によって創りだされた幻影でしか無い。
私が、どれだけ彼の為に尽くしたか、周りの人間は知る由もないだろう。
いや知ってはならない。これは私と彼との秘め事でなければならない。
彼は豊かすぎるあまり世界に対して唖でつんぼの振りをしていた。
そして穏やかに気力は衰え、持った才能を使う事無くそろそろこの世界から去ろうとしていた。
だが私は、彼の生来の高尚さに酷く感動したので期限が来るまでずっと見ていたく思い、
門戸を私の人生で暫く閉ざすことによってなんとか引き止めた。
美しくて脆弱で、無垢な彼を存在させる機関を作るべく私は一旦人間であることをやめた。
金を集める為には権力が必要だ。権力を握る為には名誉が必要だ。名誉を得る為には頭脳が必要だ。
自分の命などただの電池に過ぎない。働け!働け!働け!
身体の感覚と精神がバラバラになり始めたあたりで漸く何とかなった。
まず場所を与えた。彼は見るようになった。
次は仲間を与えた。彼は聞くようになった。
その後女を与えた。彼は才能を使うようになった。
そして最後に、私を疎むようになった。

私は歓喜に打ち震えた。
侮蔑されることに歓びを見いだしているのではない。
真の貴族にとって、世界は、自分の出自でさえ自身の選択した結果でなければならない。
しかし、現在の境涯は悉皆私によって形成されたものであり、
彼が事態に勘づいた時にはもう抜けだせないよう周到な箱庭としておいた。
箱庭というプリズムから私にのみ分光する感情。
清廉な魂に宿る娼嫉。娼嫉することに厭忌する高潔な性。相反する性質と精神。
彼は静かに狂っていった。私に対する感情のみに。

周りの人間は彼のことを太陽のような人、と喩える事をよく好む。

お前たちは、彼の憎悪に燃え上がった瞳を、赤色に染まった光線を、見たこともないくせに。

生きること、自己実現することに目覚めた彼にとって私は脚にまとわりついた大きな肉瘤であり、
だが切り離そうにも歩く為には切り離すことができない。
多分自分は、美術館に展示された華奢で精巧な白磁の壺に小さく宿る黒点となりたいのだろう。
所有したいわけでも、壊したいわけでも、汚したいわけでもない。
歪な様を作り出し、ただ傍観していたいのだ。
だからユダになど絶対になってやらぬ。
自身の手で、私は一生彼の肉瘤であり、黒点であり、傍観者であり続ける。

僕は君を愛す。


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最終更新:2011年06月26日 14:45