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ジャイアニズム

分からないのか?
分からなかったよ。
気付かなかったのか?
気付かなかったとも。
君が名残惜しそうに語りかける。その声は弱弱しく、全てを悟り、諦め
きったように奥底に響くので、小心者は居た堪れなくなり、傲慢だった
君の昔の面影を、ついどこかに探してしまう。
そもそも君は、僕から分捕った本をまだ返してくれてはいないんだ。
あの時のゲームソフトはどこへやった。壊したプラモは壊れたままか。
君の前で、僕はてんで意気地の無い子供だった。粗暴で凶暴、恐怖
政治の暴君に、逆らえる奴などいなかった。君の素顔に、君の心に
近付ける者はいなかったのだ。少年時代は取り返せない。それは
きっと、かけがえのない時間だったに違いない。

僕の体をどうどうと、潮騒のように血液が巡る。繰り返されるその流れ
を支配するのは、中央付近に宿るこぶしほどの塊だ。どくりどくりと
収縮は絶えず、網の目よりもなお細かい、無数の血管を通じて無限に
エネルギーを送り出す。心臓は叫ぶ。血となれ、肉となれ、生命を
絶やすなと訴える。
その胸に手の平を押し当てて、かすかに残る君の声を聞く。日々新しく
生まれ変わる血液の中の、残滓のような君の声。永久に伝えられる
ことのなかったはずの秘められた君の思いが、僕の糧となり、体中を
駆け抜けていく。移植された心臓に提供者の記憶が宿るなどと信じる
者は笑われるだろう。それでも確かに、これは君の鼓動だ。僕の体に
取り込まれた瞬間に蘇った、君の最後の言葉。

君は結局僕の物は何でも自分の物にしてしまって、戻してはくれな
かった。僕の全てを奪い去ってしまおうという性分は、今でも変わりが
ないようだ。僕の中心は君によって支配された。君の音がそこで鳴り
響いている限り、僕は君のものだ。