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若頭x組長

深夜の繁華街。悪趣味でド派手なネオンと虚ろに歩く人間達の群れ。
俺は冷えた地面に重い腰を下ろして、膝に顔を埋めた。
軽蔑した様な視線が、時折俺のボロボロな肉体に刺さるのを感じる。
馬鹿にしてんのか?そうだな、お前らは家に帰れば温かい家族と食事が
待ってるんだもんな。それとも、他人の不幸は蜜の味って?
…ああ、もう何も見たくない、何も聴きたくない。

「…おいガキ、ここで死ぬつもりか?」

何時間そうしていたんだろう。頭の上で低い声がして、俺は顔を上げた。
サングラス越しでもはっきり分かる、鋭い眼光。
黒いスーツの下にはきっと逞しい身体が隠されているんだろう。
…モノホンか?俺、殺されるのかな。そんな事をぼんやり考えていると、
「来い。せっかく貰った命、粗末にするモンじゃねぇ。」
「…!?」
ぐいっと腕を掴まれて、乱暴に引き摺られる。
その凄い力に何も抵抗できないままに黒光りする車に押し込まれ、
連れて行かれた場所は、ぎょっとする程大きな日本風の屋敷。
「…おいオッサン、何が目的なんだよ?」
「礼儀を知らねぇ奴だな。まぁとにかく座れって。」
何も分からないままにテーブルに付いた俺の目の前に出されたのは、
湯気が立ち込める、オニオンスープ。
「どうせ腹減ってんだろう、食え。」
差し出されたスプーンを受け取って、恐る恐る一さじ口に入れる。

「どうだ、旨いか。」

…親に幾ら殴られても声一つ上げなかった俺が、その時初めて泣いた。
「よし、今日からお前は俺の右腕だ。精進しろよ。」

「はい!」

頬が上気するのを感じながら、俺は勢い良く頭を下げた。
…あれから何年の月日が過ぎたのか。拾ってくれた組長の恩に報いる為、
俺は必死で働いた。危険な仕事もしたけど、決して命を粗末にしたりはしなかった。
そして今日、俺は若頭に任命された。
嬉しい。これからは、もっとこの人に尽くす事が出来る。
「…あん時拾ったガキが、こんなイイ男に育つなんてな。」
あの時より少し皺の増えた目元。優しい口調でそう言われて、胸が高鳴った。
若い奴らの嫉妬した様な目線に、妙に優越感を感じちゃったりして。
やばいかな、俺。この「憧れ」の感情、いつまでそのままでいられるんだろう。

もう少しで、この世界で一番大切な仁義を忘れてしまいそうだ。