狼×犬

俺のいる動物園は、もう閉園が決まっていた。
まあ、仕方がない。象もライオンもパンダもいない、しょぼい動物園だものな。
けど、そんなここにも一応目玉ってやつがいて、それが俺、オオカミ様ってわけだ。
遠足に来たガキなんかは、俺を見て「こわい」なんて言いやがる。
そう言われると、俺もいい気になるんで、大声で吼えてみたりしてやるんだ。
ところで最近、誰もいない深夜に俺の檻の前に野良犬がやってくるんだよ。
小さくてふわふわした茶色いヤツで、これで本当に俺達の仲間なのかって思う。
そりゃ俺も、はじめのうちは吼えたり牙を見せたりして、怖がらせようとしたよ。
でも、全然びびらねえんだ。むしろ、俺の声を聞いて楽しそうにしてやがる。
で、むかついた俺はそいつに聞いてみたんだ。 俺が怖くないのかって。
そうしたらさ、そいつは笑って「おじさんの声、父さんに似てるんだ」って答えた
そいつのオヤジは『大きな車に乗った白い服の人間』に捕まって、どこかに連れて行かれたんだって。
だからそいつは、そのオヤジを探して、色々歩き回ってるらしい。
俺は言ったね。「じゃあ、見つかるまでは俺がオヤジの代わりをしてやるよ」
…ああ、言うなよ、分かってるんだって。
俺はもうすぐ他の動物園に売られちまうんだからな。
こいつといてやれるのも、あと一週間ってとこよ。
…だけど、だけどさ、その間だけは、せめてあいつの望むだけ吼えてやっても…構わないだろ?



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最終更新:2011年04月25日 00:27