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今日で五年目

ここで、懺悔したのでいいんですか。
あ、この板の向こう側に、神父さんがいらっしゃるんですね。
すみません、こういった所ははじめてなもので。
キリスト教徒じゃなくても、懺悔ってしていいんですよね。
…ええ、では話させてもらいます。

彼と出会ったのは、僕が大学に入学した時でした。
彼は2つ上の先輩で、岩のような顔をしているのに、優しくて小心者な
ところがあり、僕はいつのまにか、彼の飼い犬のように、彼の後ろを
ついてまわることが、至上の喜びとなっていました。
彼が、僕に「バンドやらないか」と話をしてくれた時は、天にものぼる
心持ちでした。
僕はその頃、この幸せな時間が、いつまでも続くものだ、と思っていました。

状況が変わったのは、僕が大学2年になった時です。
彼と一緒にいることが、僕の生活の全てになっていました。
しかし、彼は大学を卒業して、バンドを辞める決意を固めていたんです。
その決意を聞いた僕は、彼を引き止めました。必死で引き止めたんです。
今思うと、常識が無い行動ですが、彼に「行かないでくれ」と言うにとどまらず、
彼の両親に直接会いに行って説得したり、彼の先生に「単位をやらないでくれ」
とお願いしたり、常識では考えがたい行動をとっていたんです。
結果、彼は、卒業して就職しました。
しかし、「卒業する。就職する。しかし、バンドは辞めない。僕からも離れない。」
彼は、そういう約束を、してくれました。
僕は、大学を辞めて、彼と一緒に暮らすようになりました。
その頃にはもう、僕は彼無しの人生なんて考えられなくなっていたんです。
だから、もし次、彼が僕から離れていくようなことが起こったら、僕はおかしく
なるだろう、と、思っていました。僕は、それを何よりも恐れました。
今日懺悔しに来たのは、そのために、僕がやったことです。

まじないって、知ってますか? ええ、おまじないではなく、「呪詛」の方です。
ある日、僕がポストを開けると、「まじない代行」というチラシが入っていました。
その頃、何よりも彼と離れることを恐れた僕は、すがるような気持ちで、その
チラシに載っていた番号に、電話しました。いまだに覚えています。
ワンコールも鳴らない内に、受話器がとられました。
僕は、まとまらない頭で、彼と一生一緒にいたい、ということを30分ぐらいかけて
訴えました。電話の向こうでは、時々あいづちが打たれるだけでしたが、僕が
話し終えると、金額と効力が続く期間が提示されました。僕が、アルバイトで
一週間働いた程度のお金で、5年間効力が続く、と言われました。
僕は、それをお願いして、彼と一緒にいられるまじないをかけてもらいました。
そちらから、見えますか? …これが、そのまじないを注文した後、送られてきた人形です。
ええ、藁人形です。ボロボロですが、まだ形はとどめています。

まじないをかけてから、彼は、ずっと、僕と一緒にいてくれました。
離れるという話は、一度も出てきたことがありません。
僕は幸せでした。彼さえいれば、何もいらなくなっていました。
いや、その気持ちは、いまだに変わっていません。
むしろ、その気持ちだけで、僕は生きているようなものです…。
…しかし、昨日、彼に告白されました。
……教会では、同性愛は、タブーでしたよね…。すみません。
でも僕は、昨日すごく嬉しかったんです。人生で、二度目の天にも昇る気持ちでした。
彼は、僕の目を見て、「ずっと一緒にいよう」と言ってくれました。

…でもね、神父さん。僕、怖くなったんです。
彼の気持ちに、嘘は無いと信じています。そんな、嘘をつけるような人じゃありません。
でも、彼がそういう気持ちを僕なんかに持ったのは、僕がまじないをかけたからではないでしょうか。
そう思った理由は、今日で5年目だからです…。
もし、まじないが本当だった場合、今日でまじないの効果は終わるはずなんです。
この藁人形は、5年間毎日持ち歩いても、藁がほどけたり抜け落ちたりはしなかったのに…、
今朝、腕の部分がパラリとほどけました。今は、足の部分もほどけて、藁にもどっています。
もし、彼が昨日、僕に言ってくれた言葉が、この人形が言わせたことだったとしたら…。
だとしたら、僕は…間違ったことを、やってしまったのではないでしょうか。

ええ。足元の荷物は、僕の荷物です。
怖くなって、家を出てきてしまいました。
彼の告白には、応えました。…気持ち悪い話かもしれませんが、昨夜、初めて彼とつながった時…、
世の中に、こんな幸せなことがあるか、と思うぐらい、幸せでした…。
でも、僕には怖いのです。今日の彼と会うのが、本当に怖い。
だから、僕は逃げることにしました。
もう…一度寄り添ったのに、離れられるなんて、無理です。
ですから、ここで自分勝手な自分に、懺悔していきたいと思います。

すみません、神様。
僕は、同性を愛し、まじないで心をゆがめ、彼の心を手にしました。
…幸せでした。ですから、地獄に落とすのは、僕だけにしてください。

…すっきりしました。
ありがとうございました、神父さん。
次に会う時があれば、いいですね。それでは、失礼いたします。