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雨に濡れて

「ど、うしたんだお前っ!」
 あまりの衝撃に声が裏返った俺を見て、彼はただいつもどおりに右手を上げて見せた。
「よお」
「よおじゃねえよ! ずぶ濡れじゃねえか!!」
梅雨時とは今日は珍しく晴天で、それはもう見事な夕焼けがあたりを真っ赤に染めつくしている。
そんな中彼だけがずぶ濡れで、途方にくれたように俺の家の前に座り込んでいた。
ガチャガチャと鍵をうるさく鳴らして開けた扉の中へとにもかくにも彼を引っ張り込んだ。
「待ってろ。今タオル持ってくっから!」
けれど彼はそのままずるずると玄関に座り込んで、両腕で顔を覆ってしまった。
「慶介?」
俺の呼びかけにも反応しない。その反応に俺は風呂場に向かいかけていた姿勢を戻した。
「……が」
かすれた低い声が聞き取れない。思わず彼の前にしゃがみこみ、下から見上げるとぼたぼたと
雫がたれてきた。
「ね、こが」
震える彼の両腕。
「俺、怖くて」
泣いてるのか、慶介。
「一瞬、見ないふり、しちまって」
彼の体から未だに乾かない雫がぼたぼたと落ち続け、玄関のアスファルトはまるで雨が降ってきたようだ。
「んで、俺、あの時」
この近所の川は最近の雨で増水していて、ごうごうと唸っている。そんな中飛び込むのは
誰だって怖い。
「俺、最低だ……!」
そう吐き捨てた慶介の体を咄嗟に抱きこんだ。
「あん時、飛び込んでれば」
彼の上着のすその泥が俺のシャツに移ったけれどそんなことは気にならなかった。
「ごめんなさい……」
そう呟く彼の体からの雨に濡れて、俺はこいつになんて言うべきか必死で考えていた。