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永遠に置き去り

そのトランクの主は、もういない。

二人が亡命を計画していると知ったときに、僕は止めなかった。
むしろ、自分の立場を利用して、何かと便宜をはかってやった。
二枚の偽装旅券、秘密の地下ルート、月の出ない闇夜。

「ありがとう、君がいなければここまでの計画はできなかったな」
「全くだ。ついたら向こうから絵葉書を出すよ、もちろん変名でね!」

しかし僕は、土壇場で二人を裏切り、密告した。
いや、もとより、僕は亡命を手助けする気などなかったのかもしれない。
君が僕以外の男性に目をむけ、その人と男性同士が愛しあえる国へ逃げ、
永遠に僕から去ってしまうことが許せなかった。

闇夜を切り裂くジープのブレーキ、荒々しい軍靴の音、悲鳴と怒声。

そしてこの小さなトランクは、国境を越え、自由の国へ行くかわりに
永遠に置き去りになった。この地上に。この僕の部屋に。
もはや許される日が来ることのない、僕の心と共に。