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バッドエンドフラグ成立の瞬間

「好きだったのになぁ」
そいつは起きて来るなり朝飯を食べていた俺の前に座ってそう呟いた。
好きって…このたらこがか?
「言っとくけどこれはやらないからな!」
「…ケチ」
たらこの乗った皿をそいつから遠ざけるように確保して威嚇する。
捨てられた仔犬みたいな目で見上げて来たが知ったこっちゃない。
「どうしてもダメ?」
いつもその手に引っ掛かって俺の好物ばかり巻き上げられているんだ。
今日こそは負けるものか。
「駄目!」
「…」
そんな沈黙されたって。
「……」
そんな潤んだ瞳を向けられたって。
「……だめ?」
「…一口、な…」

雨ニモマケズ風ニモマケズ。
でも宮沢賢治さん、俺こいつにだけは勝てる気がしません。

じゃあ出かけて来るけど…何か買って来るか?」
玄関で靴を履きながら、珍しく見送りに来たヤツに尋ねる。
「別にいいよ」
「そうか?…たらこは?」
そう聞いてはみたが、正直俺が食い足りないだけだ。
結局殆どこいつに食われたたらこに思いを馳せる。
「いらない」
「好きなんだろ?別に今…」
「もうあんまり好きじゃないから」
別に今食べなくても買い置きにでもしておけば。
財布の紐を握っているヤツを説得するためにそう続けようとしたが、非情な言葉に遮られてしまった。
「…そうなの?」
「そうなの」
じゃあ何で俺のたらこ取ったんだよ…。
そう思いながらドアノブに手を掛けた。
まあ、いいか。やたら切ないけどいつものことだし。
…ほんとに切ねぇな…。


「じゃあ、行って来るよ」
「ばいばーい」
何とも気の抜ける返事だ。
こいつらしいと言えばこいつらしい。
まあ見送ってくれるのは本当に珍しいし、自腹でケーキでも買って来てやるか。
俺ってば結構理想の彼氏だよな。ホモだけど。
……。

「ばいばーい…」
さっさとリビングに引っ込もうとしているあいつの背中に向かって力なく呟く。
自分で言っておきながらまた少し切なくなってしまった。

いつもみたいに電車に乗って会社に行って適当に働いて、駅前でケーキ買ってまた電車に乗って。
へとへとに疲れた顔で「お土産~」って言った俺にあいつはどう返すだろうか。
…全然思い浮かばない。
自分勝手で天然だからな。想像するだけ無駄だったか。
今からあいつの反応が楽しみだ。ちょっと怖いけど…。
そんな不毛な想像をしつつ、生ごみの入った袋を片手にまだ人気のない住宅街を歩いていく。
俺ってば結構幸せなんじゃねーの?と肌身で感じながら。





『好きだったのになぁ』
急いでたから、その言葉の意味なんて深く考えなかった。
あいつの先の行動が思いつかないのはいつものことだ。
それなのに。
俺は結構な馬鹿だから、家に帰ればいつもあいつの笑顔が迎えてくれると思ってたんだ。