※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

子育て

深夜に帰宅したら、アパートの前の土をシャベルで掘り返している男がいて一瞬身構えた。
「…矢野君。通報されるぞ、何…やってんだ。」
隣の部屋のおとなしい大学生だとわかったので、声をひそめて話しかけた。
彼は振り向くとかるく頭を下げたが、戸惑っているのか何も言わない。
もっとも理由は足下を見てすぐに察しがついた…土の上に猫の骸があったから。

「あの猫、俺も知ってるよ。去年くらいからよくここにいたノラだよな。」
「…たぶん、まだ一才くらいだった…」
アパートの地所に勝手に動物の遺体を埋めるのは、たぶん違法だろうな、
と思いつつも、他にどうして良いかわからず、結局俺も彼を手伝った。
「矢野君、ちょっとうちで飲んでく?汚くしてるけど」
彼があまりに落ち込んだ顔をしているので、つい、元気づけてやりたくなって
そんなことを言ってしまったのだが、俺らしくないとは思った。
「…大川さん…。あの…すみません、ちょっと待っててください…!」
そう言って彼は自分の部屋に駆けて行った。うん、と答えて俺も自室の鍵を開ける。
つまみでも持ってくるつもりかな。しかしこの部屋に誰かが来るのは久しぶりだ、
などと考えながら、電気を付けて、テーブルの上を拭いたりしていた。
「…お邪魔します。」
「おー。あ、そうだ、矢野君は焼酎と日本酒どっちが…いい…」
矢野君は玄関口に、セルロイドの洗面器を持って立っていた。
俺は、その洗面器の中に何が入っているのかは、直感でわかってしまった。
立ち尽くしている彼に近づき、洗面器の中身を確認して、指でつついた。
「…目は開いてるんだな。三週間くらいか。」
「大川さん…、俺、こいつらのこと……」
訴えるような眼差しで俺を見る矢野君の目には、涙が…
「…こいつらのこと…ちゃんと、大きくなるまで守ってやりたい…」
矢野君の涙に反応してか、洗面器の中では子猫たちがごろんごろん転がりだす。
「…わかった、わかった。」
俺は洗面器を受け取って、涙を抑えられない矢野君の肩を抱いた。
ふたりで立派に育ててやろう、だから泣くなよ…などと口走ってしまったのは、
母猫の霊に取り憑かれてでもいたからだろうか。
さらにそれから二ヶ月後、矢野君と二人(と三匹)でペットが飼えるマンションに引っ越すことになったのは、
やっぱり母猫の霊の導きなのだろうか。
もしかして、恩返しのつもりなんだろうか…。