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意地っ張り同士

ウチは書道部であってウェイトレーニング部ではない筈なんですが。
部長と副部長にそう言いたい気持ちをぐっとこらえ、乱れた字が書かれた紙を丸めて
捨てながら小林君はため息を吐きました。小林君の傍では部長が腕立て伏せをする副
部長の背中に硯を大量に乗せています。
「どうだ、重いだろ!」
「重くないな。俺は鍛えてるから」
「なにぉ。うりゃこれでどうだ」
「全然余裕。お前だったら潰れてるな」
部長が更に副部長に5個ほど硯を乗せたのを、小林君は筆に墨を含ませながら横目で
見ていました。どちらも意地っ張りでちっともひきません。「重い。参った」「お前の体
力には負けた」どちらかがこう言うまでこの勝負は続くようです。

ウチは書道部であって柔道部ではない筈なんですが。
部長と副部長にそう言いたい気持ちをぐっとこらえ、顧問と一緒に新しい紙の注文を
検討しながら小林君はため息を吐きました。小林君と顧問がいる机の周りを片付けた
部長と副部長が、体育の授業で習った柔道の技を掛け合っています。
「とりゃ」
「このやろ」
「でやっ」
「なにくそ」
副部長が足払いをかけ部長がそれを上手くかわしたのを、小林君は注文書にペンを滑
らせながら横目で見ていました。どちらも意地っ張りでちっともひきません。寝技に
突入し、もはやレスリング部並の二人の戦いはまだまだ続くようです。

ウチは書道部であって弁論部ではない筈なんですが。
部長と副部長にそう言いたい気持ちをぐっとこらえ、夏休み前の大掃除に顧問といそ
しむ小林君はため息を吐きました。顧問がちらりと小林君を見て「終わったらアイス奢
ってやるから」と小声で言いました。どうやら小林君が大掃除に疲れてきたと顧問は勘
違いをしたようです。小林君と顧問の後ろではひとしきりわぁわぁ言い合った二人が
黙り込んでいます。
「「………」」
「「…好きだ!」」
驚いて小林君は筆を洗う手を止め声のした方向を見ました。黙っていた部長と副部長が
同時に言葉を発したのです。筆を取り落としそうになり慌てている小林君の顔を顧問は
ぐるりと元に戻しました。
「せんせ…!」
「二人の問題だから、な?」
この日の放課後、小林君が部室に入ると部長と副部長は話し合いをしていました。高校
3年生のあまり一般的ではない時期に部長の転校が決まったのです。とても仲の良い二
人が黙り込むのに1時間かかりました。
「いや俺の方が好きだ」「馬鹿、お前は俺の愛の深さを知らないんだ」「いやいやそれはお前
だって」「信じろ!絶対俺の方がお前の事好きだよ」「俺の方が好きに決まってんだろ!」
いつものごとく意地を張り始めた二人は、おかしな愛の告白勝負を始めました。
「なぁ…」
「なんだよ」
「大学、一緒のトコ入ろうな」
「!」
「もう離れたくねぇからさ」
「……俺の偏差値知ってんのかよ」
「お前こそ俺のレベルについてこれんのかよ」
「望むところだ。夢はでっかく東大で会おうじゃねぇか!」
「言ったな!浪人生活が二桁いかないように今から勉強しろよ!!」
ウチは書道部であってラ部ではない筈なんですが、まぁよしとします今日だけは。と小林君は
思いました。顧問から渡された千円札を持って意地っ張りの二人と顧問、そして自分の分のア
イスを買うために部室を出ながら。