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今夜すべてがパーに

外は嵐だった。
実を言うと、中も嵐だった。分厚い唇が唇にあたる。
湿り気を帯びた大胸筋同士を、肌と肌とで擦り
合わせる。ぐしゃぐしゃになったシーツの上で、
ずぶ濡れになったスラックスの足を絡めれば、
革のベルトが軋んで鳴いた。

こいつはこんなに鼻息の荒い奴だったんだろうか。
オレの頬やら首筋やらにキスの雨を降らせながら、
葛西は喉から声を絞り出した。
「三年だ。三年間黙ってた。ずっと目を閉じて、おまえの
側で、一日一日をやり過ごしてきたんだ」
雨に打たれて脱ぎ捨てられたワイシャツが雑巾のようだ。
二人分、まとめてベッドの下に丸まっている。
「なのに、今夜、全部パーになっちまった。どうしてくれる」
葛西の腕がオレをまさぐる。
どうしてだと、そいつはおまえだけのセリフではない。
そうだ、今日という日がなければ、一生気付かぬ
ふりをしていた。耳を塞ぎ、きれいな嫁さん貰って、
家族を持って、のんびり余生を送ったはずなんだ。
それがビルの谷間で数十秒、そろってどしゃ降りに
遭っただけでこの様だ。濡れた体を言い訳にして、
葛西のマンションにもつれこんだ。いい様だ、
二人とも何一つ分っちゃいなかった。

オレ達に必要だったのは勇気などではない。
ましてやいい年をした男の、引き際を見極める分別や、
敢えて身を引く潔さですらなかったのだ。

パンドラの箱を二人で開けた。果たして箱の底に
希望は残されていたのか、それすら知り得ない。
ただ嵐が吹いていた、それだけだった。