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今年の紫陽花は何故か青い

「これ、一緒の買おうよ」

そう言われたのは確か、大学二年の夏だったと思う。
二人で出掛けた神社の縁日で恵介にそう誘われて買った指輪は、つけるのが恥ずかしいほどチャチな作りだった。
どう贔屓目に見ても子供の玩具にしか見えないそれは、けれど当時の俺たちにとって確かに宝物だった。
安っぽく、下品な輝き方をする、ギラギラしたアルミの指輪。
それを人気のない陰で、結婚指輪か何かのような慎重さで互いの指に嵌めあったのを覚えている。
頬を真っ赤に染める恵介にその場で口付けて、「ずっと一緒にいような」と囁く。
それにこくんと首を頷かせる彼をきつく抱きしめて、もう一度、今度は深いキスをした。

――大抵のカップルは、自分達に終わりがあるなんて予想していない。
俺たちも当然その例に漏れず、この指輪を外す日が来るなんて事は夢にも思っていなかった。

月日は巡り、指輪は色褪せ、相思相愛だったカップルは倦怠期を迎える。
俺たちは些細な、本当に心から下らないと思えるようなことで言い争いを重ね合った。
それはゴミの出し方だったり、エアコンの設定温度だったり、着信履歴の見知らぬ名前だったりした。
恵介と俺は徐々にすれ違っていき、ついに決定的に崩壊した。
「別れよう」と、先に結論付けたのがどちらだったか、どうしてか記憶にない。
覚えているのは、俺の部屋から無言で出て行ったあいつの後姿だけだ。
あいつが出て行ってすぐ、やけに広く感じられる部屋で、数年ぶりに人差し指の指輪を外した。
強くぐっと手に握って、力任せに窓から庭へ放り投げる。
それはきれいな山形を描いて、アジサイの植え込みの辺りに落ちた。

数ヵ月後、恵介を忘れようと努力する俺を嘲笑うように、庭に青いアジサイが咲いた。
忘れることなど出来ないのだと、思い知らされたような気がした。