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かたつむり

駅前のパン屋で朝食用のパンを買って、通勤の道すがら食べるのが日課だ。
店の脇に自転車を止めながら、はやくも店内に並ぶ焼きたてのパンに思いを馳せる。
昨日も食べたけど新作の麻婆パンはやっぱりいいな、しかし今日はツナジャガパンの気分かも……
そんな事を考えながら店に入ると、
「いらっしゃい……あ!お兄さん、待ってたんすよ!」
レジにいた店員が、そう言って俺に駆け寄ってきた。
この若い店員は去年の夏頃からこの店で見かけるようになったヤツで、確かにそれから
ほぼ毎日顔を合わせている仲ではあるが……
「……え、な、何?」
「あのっすね……コレ。」
店内にはおれたちしかいないのだが、彼は声をひそめ、辺りを憚るようにしておれに紙袋を渡した。
おれが紙袋の中身を確かめようとすると、
「あっ、あっ、あのっ……目の前でっつーのはちょっとかんべん……!!」
と妙なうろたえかたでおれを制止する。
「実は、自分が初めて考えた創作パンの試作品なんすよ。……そんで、ゲンカツギみたいな感じで、
うちのプラチナ常連のお兄さんに、一番に食べてもらえたら……その、勇気が湧くかなーって」
しどろもどろになりながらも真っ直ぐおれをみつめてくる眼差しに痛いくらいの誠意を感じて、
……って、おれがここで赤くなるのはおかしい。
「わかった、お前の大事な第一作はおれが確かに受け取らせてもらう。これからもがんばれ。」
「……!!やった!ありがとうございますっ!」

「明日も来てくださいねーっ!いってらっしゃーい!」
明るい声に見送られてパン屋を後にする。
駅前の通りを曲がって商店街に差し掛かった辺りで、ようやくおれは紙袋に手をかけた。
中には粉チーズをまぶしたデニッシュ生地で形を模した『かたつむりぱん』が入っていて、
そいつは食べてしまうのがもったいないくらいかわいかった。